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真夏に口遊むラストクリスマス。

真夏に口遊むラストクリスマス。
気づけば5年くらいの付き合いになるイギリス人の女の子。
辿々しい日本語と辿々しい英語。
歌うと喜んでくれるから
何度も歌った。ラストクリスマス。
あなたのテーマソング。
グレンフィディックのロックを傾けながら口遊む。
アイラブジョージマイクー。と彼女は、笑う。
あまり上手に喋れなくても一緒に居ると言ってることがわかるから不思議だ。
気付けば日本語と英語が入れ替わるのが可笑しい。
わかろうとするってその時間が優しい。

出会ってから半年間くらいが濃密だった。
ノゾミ帰りたくない。って言えば朝までお酒を飲んだし。
寒いな。寒いな。寒いから走るかって言って街を走ったり(彼女は、足が速い。)
引っ越してきたばかりで
カーテンもない部屋に初めて行った時は
荷物の再配達の方法がわからないと嘆くので
やり方を翻訳したり
風邪を引いたら、薬や果物を届けたり。 
そんな感じで毎日、心配しながら暮らした。
けれど人って案外大丈夫だ。
世間って思ってるより優しい。
生きていく為に、どうするのか。
人との関わり方なんかを彼女から学んだりもした。

正直、海外の人は苦手だった。
英語が全くわからないからだ。
彼女と知り合った日は
ほんとは、とても疲れていた。
その日音楽活動の方でテレビ番組が
ピックアップしてくれるという事で
色々な映像を作ったり
告知するべき内容をまとめたり
準備に大忙しで
やっと無事に出演が終わって
ひと段落したところだったからだ。

出演を終えてそのまま夜バーで働いている時に、彼女は初めてひとりで店に来た。

こんな疲れてる時に海外の人を接客するのか。ついてないな。と、内心思っていた。
その日は、暇だったのもあり
結局閉店の2時くらいまでスマホの翻訳機能なんかを使いながら色々話した。
彼女の話は面白かった。
比較的フランクに関わったせいか、思っているより心は軽やかだった。

それから毎週彼女は、来るようになって色々なところに遊びに連れて行ってくれた。
こっちのほうが地元に住んでいるのにおかしな話だ。

彼女の生活圏で遊ぶと
様々な海外の人と知り合ったり
その文化に触れたり
ドイツ料理や韓国料理のお店やフェスに行ったりそれまでは、関わらないものに沢山関わる機会が増えた。
小さな田舎町に住んでいるのに海外に遊びに行ったかのような感覚になって
あーそーかー。
関わる環境や興味の持ち方次第で
同じ場所に居ても体験出来ることが全然違うんだなぁと体感したりした。

ワーホリとかもっと早く興味を持っていたらよかった。
自分に、出来る事を小さく捉えなきゃよかった。

でもいつか40代くらいになったら
写真を撮って文章を書いて、小さなギターを弾いて歌う旅をしたいと、未来に夢を持った。

ひょんな事が確かに結び目を作っていくのが人生なのかもしれない。
なんて壮大な事を考えたり。

そんな彼女と久々にお酒を飲んだ。
真夏に口遊むラストクリスマス。

ノゾミずっとこれからも関わりがあるよ。
いつでも大切に思っているよ。と
蒼い瞳は、真っ直ぐに見つめて言う。
君が育った街をいつか案内してよ。
海が見えるその街を。
彼女の幼少期の写真を見せてもらいながらお酒を飲む。
色んな人が色んな生き方をしてるんだなぁと、酔いの回った頭で考える。
もはや
日本語を使ってるのか
英語を使ってるのか
分からなくなりながら会話をする。
考えてる事や、思ってる事が
言葉の正しさは、関係なく伝わる。
そんな風に心を感じていたいなと思う。

人との出逢いのタイミングは
わからないなって思う。
それがどんな事を自分に教えてくれるのか。
そういうサインを見逃さないように
生きていたいなと思う。

いつかロンドンから外れたその小さな海の街で、ラストクリスマスを歌いたい。







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