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『あの日のオルガン』を観て

今公開中の映画『あの日のオルガン』を観ました。

実話をもとにした映画で、第二次世界大戦末期の1944年に日本で初めて幼児の集団疎開を実現させた保母たちが主人公です。

当時たくさんの小学生が学童疎開をしたことは知っていましたが、保育園児が親と離れて疎開したという話は、この映画で初めて知りました。

集団疎開は戸越保育所と愛育隣保館という東京の2つの保育所が共同で行ったもので、園児53人と数名の保母が埼玉県の妙楽寺というお寺を「疎開保育園」にし、共同生活を送ります(映画では、お寺には誰もいなくて荒れ放題の状態。そこを住める状態にするという大仕事も、保母たちの役目でした)。

幼い子供を遠くにやることに葛藤する親たち、疎開中に空襲で親を失った子ども……様々な辛い現実が描かれ、何度も心を揺さぶられました。保母という仕事に真剣に取り組む女性たちの姿にもひき込まれました。特に印象に残ったのは、戦争の理不尽さ、保母の仕事の大変さの2つです。

「文化的な生活」が二の次になってしまう戦争

映画が始まってすぐ、戸田恵梨香さん演じる主人公の楓がこんなことを言います。

「私たち、ただ子どもたちを預かってるんじゃありません。あの歳で芽生えてくる豊かな感性を、文化的な環境で育んでいるんです」

楓は保母として、子どもたちの命だけでなく「文化的な生活」を実現するために疎開を提案し、強い意志で実現させたのです。

しかし、「花を育てるくらいなら、野菜を育てろ」と言われるような世の中。多くの人は生きるのに必死で「文化的な生活」など考える余裕もありません。

協力してくれるはずの疎開先の村の男は、子どもたちを何も生産しないで消費するばかりの「消費班」だと言って迷惑がりました。楓の上司である保育所長は「子どもたちを、お国の役に立つ兵隊になるまで守り育てるのが我々の責務」と言って、その場を収めます。

所長の言葉は本心ではないと思いますが、人を戦いの道具とみなし、人間が人間らしく生きるという当たり前の権利が後回しされる、そんな状況を普通にしてしまう戦争の理不尽さが伝わってきました。

保母(保育士)の仕事の難しさと重要性

現代の普通の保育園は、食べものが不足しているわけでも空襲警報が鳴るわけでもなく、24時間体制で子どもたちの面倒を見ているわけでもない。それでも、映画を観ていると今の保育士さんたちの苦労も想像されて、保育園児の親としては感謝せずにはいられませんでした。

疎開先に子どもたちの親が日帰りで訪問した夜からしばらく、子どもたちのおねしょが毎日続いて保母たちが困りきってしまう、というエピソードが出てきます。久しぶりに親に会えて、でもすぐに離れなければいけないという寂しさ、ストレスが、おねしょという形で現れたわけです。

子どもの状態というのは、人間関係や家庭環境に大きく影響されるもので、保育士というのは子どもに向き合いながら、実はその子の家庭の問題も一緒に背負うような仕事なんだなぁ、と感じました。

子どもと遊んでいれば良い、というような簡単な仕事ではないんです。核家族化が進んでいる今、家庭の外から子どもたちに関わってくれる存在はとても重要。昨今は保育士の待遇の低さ、保育士不足が大きな問題になっていますが、この仕事がもっと尊重され、誇りをもって取り組んでくれる保育士さんが増えてほしいと思います。

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