勇者と姫が話デスノート64

姫はどうするのですか?
こんなに危険な世の中で、
ーそんなに危険でしょうか?
私はこんなに傷つきましたよ。もう、ボロボロです。何も残っていません。そして敵は増えていくばかりで、自分だけが弱くなり、相手はむしろ勢力拡大しています。仲間もいなくて本当に危険です。
ー私はもう大人です。だから大丈夫です。
大人って何ですか?勇者である私は子供時代などありませんよ。大人も子供も関係ありません。
ーそうですね。私は親の保護が要りません。まずはあなたの脅威である親の存在に怯える必要はありません。食べる物を買うお金があります。買う方法も知っています。健康的な食材を買って料理して、安心して自分の体に心地よく食べることができます。毒親からの食事の指示に従ったり怯える必要はもうありません。食べ過ぎることも、自分の体に悪いことも、生ごみを食べさせられることももうありません。疲れているけれど、お腹が空いた時には、好きなものを食べてもいいのです。
ニコニコ笑いながら自由に残したり食べたりしていいのです。

なるほど。
衣食住には困ることはないと。
ただ寝ているだけで、ただ息をしただけで、理不尽にキレられることもないと。
生きていてはいけない。お前のせいで。と苦しめられることもないと。
平和にただ生活していてもいいんだと。安心して眠れる場所があると。
もう勇者は必要ないと。
ーそうです。戦う必要はありません。
この世界は敵ではないのです。縦の関係という世界での戦いが終わって、横の関係という世界に生きることになったのです。

いやいや、縦の社会で負けはしたけれども、まだまだ戦っていけば
いつかは勝利できる日が来るかもしれません。
戦いを止めてはダメです。あの人もこの人も新たな敵かもしれません。
世界など、社会など、変わりません、人は皆、敵なのですから。
ーさすが勇者です。さすが戦士です。戦うために産まれてきた。姫を守るために産まれたあなたはそれでいいのですよ。戦士だからね。私を守ってくれていたのに、はいもういいです。と言ってはあまりに酷ですよね。世界は変わったから戦いは終わり。と言われたら、まるで突然の解雇ですよね。もう要らないよ、なんて酷い。

姫は誰かに騙されているのでは?
耳障りの良い言葉や甘い誘惑に騙されているのではないですか?
現にあなたは何も成功を手にしていない。
ーえぇ。縦の社会では勝利して成功が全てでしょう。
この新しい横社会では幸福で満たされれば十分なのですよ。

やはり変な宗教に巻き込まれているのでは?
ーそうですね。私が横社会に生きることになると、
縦社会を否定することになったり、戦士の存在を否定することになるのかもしれませんね。けれど、そうではありません。縦社会は存在し続けます。敵も勇者もいるでしょう。勇者はそこで活躍し、成功に向かって戦い続けること、それは戦士としてのあるべき姿だしその存在も必要です。ただ、私は姫として守られる存在ではなくて、一人のただのヒメとして横社会に冒険に出ていこうとしているだけですよ。

冒険には戦士が必要です。
ー縦社会ではね。私がこれから行くのは横社会なのよ。そこでは人々は敵ではなく、互いを尊重し合う仲間として協力関係を築いていくの。戦いではないのよ。
自分の能力を正義の盾と矛として使うのではなくて、自分の能力を相手への思いやりの栄養として水や光のように与え合うの。

冒険が、戦いではなく、与え合うことだと。
戦士ではなく行者。
正義の盾と矛ではなく、思いやりの並走。
そういう世界に冒険に行くと、、、。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?