刀と算盤

愛憎入り混じる……そんな拙作「蔦屋」


 新刊「刀と算盤」(光文社)好評発売中です!

 今日はちょっと趣向を変え、BOOKBANGさんの記事を。

 さて、作家稼業も六年目になると、自作の小説についていろんな思いを持つようになります。
 「この小説を書いていた頃、マジで色々大変だったんだよなあ」
 「この時、たしか滅茶苦茶苦労したはず……」
 「頑張った甲斐あって、結構売れたんだよな」
 「地味な話だと思ったら話題作になったでござるw」
 小説というのは読者さんが詠んでくれたことにより初めて完成するものです。なので、世に出してからの反応や、思い出などがこびり付くものなのです。

 わたしにも、そんな小説があります。

 「蔦屋」(学研パブリッシング)です。
 二年目に世に問うた二作目、江戸期の版元・蔦屋重三郎を主人公にし、周囲の文化人や絵師を配した、最近のわたしの小説だと「おもちゃ絵芳藤」(文藝春秋)のノリに近い小説です。
 たぶん世間の皆様はあまりご存じじゃないと思いますが、実は本作、まあまあ話題になった本でもあります。本書のおかげで知り合えた方も多いですし、天狼院書店さんなどは本書を「天狼院秘本」(表紙を隠して販売するという形式の販売形態)に選んでくれたりしました。ぶっちゃけ、業界では本書がきっかけでわたしの存在が知られまして、今でも代表作の一作に数えられています。

 わたしを遠いところに運んでくれた一作は、間違いなく本書です。

 けれど一方で、わたしにとっては扱いが難しい小説でもあります。
 今のわたしから見ると、とんでもなく拙い小説なんです。ところが、今のわたしがリファインしちゃうとこの本のフレッシュさが消えてしまう気がしていて、迂闊に手直しができない。
 今のわたしが、本書をそのまま文庫にすることはできない。けれど、どこから直していいのか分からない。ゆえに文庫化できない、という不思議な一冊になってしまっているのです(実は、一次文庫化権を持っている学研さんが文芸をお辞めになられてしまったので、文庫化しないでこのまま来ているという面もあります)。
 たとえば、「蔦屋」から一年後に刊行した「曽呂利!」(実業之日本社)などは来年文庫化することになっており、かなり手直しを加えたのですが、あの頃のエッセンスを残したまま、今のわたしでもリファインできる内容だったんです。

 なんというか、ラッキーパンチ? というか、天然で書き上げちゃった小説だけに、詳しいメカニズムが分からなくなっている、というか。

 ともかく、いつかは文庫化させてもらえたらなあとは思っているものの、論理的に手直しができないだけに、どうしたらいいもんだろうかと小首をかしげている、そんな変な小説になってしまっております。

 ……と、なぜこんな話をさせていただいたのかと言いますと。
 AMAZONさんのKINDLEで半額セールをやっているとのことです。
 ご興味があり、電子書籍に抵抗のない方、ぜひとも! というダイマでした。

(現在書店さんでの紙書籍在庫もほぼ存在せず、ゆえにAMAZONさんリンクを張りやすいという面もありますね。そういう意味でも珍しい本です)


PS
 実はこの本については天国と地獄を味わった種になった本でもあるのですが、この話はnoteじゃできないよ! マジでできないよ! 振りじゃないYO!

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