55468_曽呂利書影

曽呂利、お前は一体何者なのだ③

 WEB連載の「桔梗の人」よろしくお願いいたします! と共に、2019年2月新刊の「奇説無惨絵条々」(文藝春秋)と文庫化「曽呂利」(実業之日本社)もよろしくお願いいたします。

 前回エントリの続きです。

 さて、いきなりですが、わたしは「歴史クラスタ」に属する人間です。もっとも、ここのところ原稿に追われてあんまり勉強できていないというのが正直なところですが……。とまれ、一般の方の中に混じれば「歴史に詳しいねえ」と褒めていただける(≒遠ざけられる)立場なのですが……。実はこの属性、小説を書くにおいてはマイナスに作用することがあります。
 その中の一つに、「一般の人たちの歴史知識を高く見積もりがち」というところがあります。
 たとえば、わたしはかつて「蔦屋」という本を書きました。江戸の出版業者の蔦屋重三郎を主人公にした歴史小説なのですが、当時の学研の編集者さんと「いや、これなら皆さん存在を知ってますよね!」とうきうきしたものでした。ところが本を出して見てびっくり、「蔦屋重三郎なんて方がいらっしゃったんですね! 初めて知りました!」と読者の方に言われてしまいました。そう、歴史クラスタゆえに、「一般の人がどこまで歴史をご存じなのか」が見えないときがあるのです。最近では「中学校の教科書に載っている人は、大体の人が知っている」という仮説のもとに企画立案をしていますけれども……。

 まあ、「蔦屋」の場合はいいんですよ。あの本は江戸時代のお仕事小説みたいな面もあるので。でも実は、「曽呂利」に関しては、完璧にこの誤算にハマってしまったんですね。
 『曽呂利』の肝は「読み替え」にありました。頓智名人の曽呂利が実は裏で×××していた(ネタバレのため伏字)という筋は、曽呂利が頓智名人であることを知る人がたくさんいないと成立しえないものです。ようは、「読み替え」というテクニックはその対象が有名でないと成立しえないわけです。
 単行本版を発表してみて感じたのが、曽呂利新左衛門が「知る人ぞ知る」人物になっているという点でした。つまり、一般の方々に対して「読み替え」の面白さを提示できるほど、曽呂利新左衛門は人口に膾炙していないということに気づかされてしまったのです。
 そこで、わたしは文庫化に当たり、とにかく「曽呂利新左衛門を知らなくても楽しめる物語」を作ろうと決め、四割原稿を差し替えるというありえへん手直しをさせてもらったというわけなのです。

 ちなみに……。具体的にどう直したかというのは下記のノベルティに記載があります。置いてくださっている書店様もございますので、よろしければそちらをご参照くださいね。

 こちらのノベルティを置いてくださる書店様、随時募集中でございますので何卒よろしくご検討ください。

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