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『奇説無惨絵条々』の世界第10回、「女の顔」ライナーノーツ(2/2)

 『奇説無惨絵条々』(文藝春秋)、各書店様、WEB書店様などで好評発売中です。

『奇説無惨絵条々』の冒頭部分、試し読み公開中です!

 ところで、拙作「奇説無惨絵条々」が4/2東京新聞他「大波小波」で取り上げられた由。ありがとうございます。

 さて、本日の「奇説無惨絵条々の世界」は、「女の顔」のライナーノーツ第二回です。
 今回は各登場人物の細かな設定や造形時のお話を中心に。

林将右衛門
 
実在しません。
 本作における探偵役です。一応ミステリ的な作品として設計した本作ですが、探偵役の将右衛門にも事件にかかわっていてもらいたいということで、かなりアレな性格になってしまいました。ぶっちゃけ、このお話、サイコパスしかいなくない……? 
 書いていて、キャラクターの把握に苦しんだ人でもあります。老境に迫ろうという刑事さんみたいなものですからねえ。仕事に打ち込みまくった六十歳のわたしをイメージして書きました。

大塚半兵衛
 実在しません。
 主人公将右衛門とのバディとして設計しました。実は当初、将右衛門はもっと実直で愛すべき人であったのですが、どんどんお話をこねくり回すうちに将右衛門がサイコパスになってゆき、気づけば大塚の方が常識人寄りになっていました。ふっしぎー。
 大塚のいちいちつっかかってくる感じが非常にかわいらしく、書いていて楽しかったです。

お絹
 
実在しません。
 実は彼女は将右衛門がサイコパスになってしまった第一の理由を作った女人です。すでにお読みの方にはご理解いただけると思いますが、将右衛門を事件の焦点に(人生レベルで)関わらせるために……というわけです。
 個人的に、こういう女性を書くの、大好きです。
 おもえば、「しゃらくせえ鼠小僧伝」(幻冬舎)のお里にも近い造形かもしれません。わたくしごとですが、「しゃらくせえ鼠小僧伝」を書いたころ結婚をして、妻という他者と向き合うようになったことが、こうした女性像の確立に一役買っている……、ああっ、妻に怒られる!

お菊
 実在します。
 いわゆる白子屋お熊事件において、毒を盛られて病臥していたお熊の婿養子・又四郎に刃物を突き立てんとして返り討ちに遭い、これがきっかけとなってお熊のすべての犯行が明るみに出るのですが――。
 当時お菊は十歳代の半ば。なんでお熊はこんな少女に(病臥していたとはいえ)大の大人の殺害を命じたのか。普通に考えておかしくない? そんな疑問がわたしのなかであったというのは前回書きました。そうした意味では、このお話の糸口を与えてくれたのはお菊でした。
 穢れなき少女というイメージで書きました。

お熊
 実在します。
 白子屋お熊事件の主犯です。実はこの事件にはお熊の母親や検校、お熊の愛人など様々な関係者がいるのですが、短編であること、本作の本筋とはあまり関係がないことからかなりはしょっています。事件の全貌を知りたい人は、関係書籍が出ているはずですのでお目を通していただけると幸いです。
 わたしとしては、毒婦お熊を現代的な形で復権させることができないだろうか、という野心の元に書いた登場人物です。
 これまでのお熊は、遊ぶ金欲しさに、恋に狂って、あるいはその両方で婿養子又四郎に魔手を伸ばす女性という風に描かれていたわけですが、この妖艶なる悪女を現代人かて見てもある種の当事者性(こういう人が自分の間近にいるかもしれないと思わせる)を感じさせるように作りたいなあ、と。
 その挙句、とんでもなく邪悪なお熊の姿が浮かび上がっちゃいました。
 事件ルポが大好きというわたしの属性が活きているんじゃないかと思います。谷津版お熊はどんな女性か……。詳しくは本作をご覧ください。

 といった感じで「女の顔」のライナーノーツもおしまいです。

 次回は「落合宿の仇討」にいきます。
 
 

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