刀と算盤

「作家埋もれがち問題」の処方箋について考える④

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 前回のエントリはこちら。

 前回までのお話を総合すると、「①クオリティを上げる ②マーケティングを頑張る ③営業を頑張る」という作家個人でできる三努力のうち、今はあまり研究が進んでいないので③が狙い目だけど、そのうちここも競争が激化していくはず」というお話でした。

 じゃあどうしたらええねん! というのが今回のお話ですが……。
 ところで皆さん、いつから作家個人の努力が上記三つだけだと錯覚していた……?(AA略)
 いや、単にわたしが伏せていただけです、ごめんなさい。実は作家が自前でできる努力はもう一つあって、あまりに自明なものであること、そして三要素の上位に存在するものであるだけに述べていなかったのです。

第四の努力「作家性を突き詰める」

 「作家性」は作家の最終兵器と言っても過言ではありません。
 作家とて人です。そして、人であるからには個性があり、その個性が小説のテーマ選定やストーリー展開に一部影響を与えます。小説という巨大なシステムを作り上げる際、大なり小なり作家は自分自身が人生で紡いできた文脈(作家の持つ常識であったり正義感であったり世界観であったり)を参照し、筆を進めてゆくのです。
 実はこの「作家性」をある程度まで突き詰めると、上記三つの努力に優越します。
 新人作家さんの本を読んだ時に感じる「清新さ」というのは、まさに未知の作家性がなせるものです。また、ある種の作家さんからすれば、作家性とマーケティングがほぼイコールである場合すらありますし、仮に上記三つの努力が不十分な小説であったとしても、「作家性」がユニークならば唯一無二の価値を持った作品が出来上がります。そして、唯一無二の「作家性」を有した作家には、時として熱狂的なファンがつき、「こんな面白いことをやっている人がいるよ!」と紹介して回ってくれるようになります。
 前回ちょろっとお話しした「炎上作家」というのは、実は「作家性」の一部に「炎上発電」を組み込んでいるとも言えます。

 あと、「作家性」を「強み」と同一視しちゃだめですよ。「強み」というのは作家性をうまく一般向けに処理できた場合に現出するものです。生の作家性というのは、時として「弱み」に繋がることもあります。「強み」というのは、作家性にマーケティングを掛け算してやったものだと覚えておいてください。換言すれば、作家性とは根源に存在するものであります。

「作家性」を突き詰めるためには

 作家性は作家から見た場合「自分の個性」に他なりません。これは「獲得する」ものであるというよりは「発見する」と表現すべきものです。
 結局のところ、「差異化」(2018/12/15「異化」より訂正)の果てにしか作家性の発見はあるまい、というのがわたしの意見です。
 わたしはAではない。
 わたしはBではない。
 わたしはCではない。
 そうやっていろいろなもので自らを割り算していって残った「余り」、これが作家性なのだとわたしは思います。そして「差異化」(2018/12/15「異化」より訂正)の種を見つけるためには、他山の石の言葉もある通り、己の外側に飛び出していって強制的に自らを異化していくしかないのでしょう。

 作家という仕事は唯一無二の自分を見つける作業です。そして、唯一無二の自分を見つけることができたなら、もはやその作家は埋もれることなく安定して書いてゆけるようになっているはずです。


 作家性に関してわたしは一家言あり(なぜならわたし自身作家性が薄いので逆に他作家の作家性をよく見渡すことができる)、まだ話せる話題ではあるのですが、本題から逸れてしまうのでこのくらいで。
 さて、実はここまでは意図して「作家個人の努力」に絞った話をしていました。
 実は明日以降の話が、この『「作家埋もれがち問題」の処方箋』シリーズの本丸になります。

 というわけで、続きは次回に。

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