この道八年の作家が「本が売れる」現象について考えてみた
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わたしは小説執筆講座の講師をしておりまして、ある方からこんなご質問をいただきました。
うん、そうですよね……。気になりますよね……。
このご質問に対ししばらくフリーズ(約3秒)し、その後ド直球に回答させていただいたんですが、もしかしたら、この話、聞きたい方もいるんじゃないかなあと思い、こうしてnoteに書き残すものです。
まず、これをお読みの方は、わたしがこういう作家だということを飲み込んでいただければと思います。
執筆者の谷津は八年目の小説家である
単行本刊行作家
ヒット作品(単巻5万部以上)は出していない
映像化、メディアミックスも未経験
直木・山周・吉川新人・大藪などの賞にノミネート経験なし
このちょっとした条件の違いで世界が変わるのが出版業界なので、まずここを飲み込んでいただければと思います。
その上で、そんなわたしが「本が売れる」とはどういうことか、考えてみようじゃありませんか。
本が売れる、とは、さまざまな事象の積み重ねである
まず、明言しておかねばなりません。
本が売れるときには、様々な事情の積み重ねが作用します、と。
思うに、こんな要素が作用しあっているんじゃないかと思います。
作家の評判 : これまで作家が培ってきた評価
書評などでの紹介 : 評論家さんの援護
出版社さんの営業力 : 出版社さんの配本能力など
時流 : 時代を捉えた内容なのか
プロモーション活動 : 出版社さんや作家の宣伝活動
クチコミ : 出た作品の評判
応援 : 書店員さんや取次さん、読者さんの盛り上げ
他にもありますが、大まかに分けるとこんな感じだと思います。
本が売れるときには、このうちのいくつかが満たされている場合が多いと考えたほうが良いのではないかと思います。すべて満たされている必要はありません。たとえば無名の作家の作品がSNSで話題になり、あれよあれよのうちに本が売れるなんてことも起こる時代となりました。また、実力派で知られていた作家さんが営業力の強い出版社さんから本を出すことで注目されて書評にも恵まれ、ヒット作が生まれるということもよく起こります。
基本的に、「本が売れる」という事象は、これらのステータスの足し算によってきまって来るものと考えてよろしいと思います。
壊れステータス「運」
しかしながら、これらの積み上げ可能な要素のほかに、もう一つ、どうしようもない隠しステータスがあります。
それが「運」です。
うそでしょとお思いでしょ? でも、厳然と存在するのですよ、運というものは。
実際、いくら評判の良い作家でも、書評で紹介していただいても、時流に沿ったものを書いても、出版社さんが必死でプロモーションをしてくださっても、売れない時には売れないものなんですよ、本って。かと思えば、ほとんどのステータスが低調にある中、逆境をものともせずにヒットする本もあります。もっとシンデレラストーリーじみたことを言えば、たまたま有名な方がテレビで本を紹介して大ヒット、なんてことだってあるわけです。いや、運としか言いようがない……。
そう、出版がギャンブルと言われる所以。本のセールスから「運」の要素を排除することはできないのです……。
自らの力を介入させられる盆茣蓙を前に
しかしながらわたしは運任せに逃げ込むつもりはありません。
ギャンブルは胴元の設定した勝率に支配された場の上で自分の引きの強さに期待する行為です。しかし、本のセールスの場合、積み上げることのできるものがたくさんあるのもまた事実なのです。
言い方を変えると、「運が介在することを認めつつ、それでも頑張る態度を堅持する」ことになるのではないかと思います。「人事を尽くして天命を待つ」。そう、これです。
運が介在する以上、百パーセントまで勝率を上げることはできないけれど、理論上は限りなくそれに近い値までは確率を上げることができるんじゃないかというのがわたしの暫定的な考えです。
もちろん、ニアリーイコール百パーセントなんていうのはもはや伝説の域です。実際には、毎回毎回出版社さんが損しないくらいの売り上げを堅持しつつ、ごくまれに小ヒット、さらにまれに中ヒット、一生に一回くらい大ヒットを狙えれば御の字なんじゃないかなあというのがわたしの考えです。そして、その域に達することすら、血を吐くような努力が必要なんじゃないかなとも思います。それこそ、一作一作作品を練り上げ、成長し続けることでしか至ることのない道だと思っています。
つまるところ、作品の質を上げる、とか、面白いものを書く、とか、時代に即したものを書く、といった日々の積み重ねで、わたしたちは壊れステータス「運」に挑まねばならないともいえます。
まとめ
わたしの考えはざっとこんな感じです。
本が売れるというのは様々なステータスの積み重ね
運は壊れ要素コワイヨー
自分で積み重ねられるステータスは積み重ねておこうぜ
というわけで、同業の皆様の健闘を祈ります。わたしもがんばる。
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