#エッセイ  『社会で生きる目を養う』~年金の心配から~

   ちょっと古い記事からですが、2021年8月26日の日経の記事では高齢化社会がもたらす各国の社会保障について書かれていました。ぶっちゃけて言うならその社会保障の内容は老後の年金の事です。日本でも約十数年ほど前から年金が無くなるのではという議論が国を挙げてさんざんされてきました。しまいには社会保険庁も国民年金機構と名を変えて年金定期便なるものが各人に来て、そりゃー上を下への大騒ぎしたのは昨日のことのように思い出します。この記事を読むと、どうやらお隣の中国と韓国もエライ事になりつつあるようです。もちろん年金は世代間の支え合いという概念ですから、我々の払ったものは基本今の老人に配られて今の子供が未来に支払う物が我々に・・・という基本構図で何となく誰もが理解しているのではないでしょうか。
   調べてみると、日本で年金制度が始まったのは1961年ごろだそうです。その頃は約10人の若者(現役世代)で1人の高齢者を支えるという仕組みになっていたそうです。それが今では3~4人で1人の高齢者を支えるという事だそうです。これじゃダメですよね。そうなると年金機構は国民から徴収して貯めた莫大なお金を投資して利回りを出すことが前提で運営されているそうです。そう考えると年金のシステムがある程度景気に左右されるのもよく分かります。年金のシステムが機能するためには国が経済的に富んで先進国になる事が必要条件と考えられのも頷けますよね。そして国家が先進国になるためには、国民健康保険・年金・失業保険・生活保護・介護保険が議会で成立することが条件の一つと言われているらしいです。そして日本はギリギリの線でそれら全てを成立させたといわれています。ちなみにアメリカでは国民健康保険等はまだ整ってないようですね。あんなに大きな国なのにと思っちゃいます。まぁ自分の事は自分での精神ですかね、そこも。このようなセイフティーネットはやはり国家の経済力が高まらないと出来ないので、豊かさが前提という事も分かりやすい話ですよね。国のGDPが高くならないと折角それぞれの公的基金を設置しても、十分にお金がプールされないので制度が維持できないというのも分かりやすいです。平たく言えば金不足では何事も運用できないという事でね。また国のGNPが高くなることと同時に国民一人当たりのGNPが高まらないとそれはそれで意味をなさないとの事です。おそらく中国と韓国はそこの所で苦しむと記事は伝えています。そう考えると経済発展って大切ですよね!何だったら私たちの住む日本も一人当たりのGNPはさっぱり伸びてないなんていうニュースも最近耳にしますので心配です。もうガッカリです。
   また記事では今年はノルウェーの年金基金の債権運用利回りが良いので当面の危機が隠されるという下りを読んだときは思わず“おお!”と思ってしまいました。2008年のリーマンショックはまさにこれの逆をいく内容でしたしね!年金は“世代間の支え合い”と言われていますが、現役世代が払い込んだものだけでは足りないというのが実情のようです。各国の基金は未来の老人世代に向けて巨額の資金を運用をしているというのが現実です。お役人に我々の未来を託すとは如何なもんかと不安を感じるのは僕だけでしょうか。運用を失敗したらどうするのでしょうか。では、運用の失敗例として折角ですので上に出したリーマンショックについてチョッと調べてみました。
   2008年のあの時は米国の住宅ブームの最終局面だったそうです。そういえば2005,6年ごろの日経新聞にはアメリカの新規着工戸数が記事としてよく出ていたのを覚えています。当時の日本のGDPでも住宅や不動産で10%くらいあると思っていたから、アメリカもそんな感じで景気を支えているのかな?くらいにしか見ていませんでしたが・・(笑)。ともかくそれまでの住宅ブームで米投資銀行は大儲けをしていました。その方法は住宅ローンを債権化して投資家に売るという極めて単純な考えに基づく方法だったらしいです。その発想は1970年代の終わり頃に考えられたそうで、住宅ローンなら安全という考えがスタートだったようです。その売り方としては、まず幾つもの個別の住宅ローンを集めて一本の債権にして不動産担保証券(通称:モーゲージ債(MBS))という債権にします。個々の住宅ローンの金利では利回りは小さいですが、まとまった数のローンを集めればその小さな利回りの額は分母が大きい分、額も大きくなりますね。それゆえ巨額な現金を安全に投資運用したい世界中の年金基金や健康保険組合などは飛びつく様に買い漁っていました。その販売が始まった当初は米国債と同等レベルに安全な金融商品と考えられたそうです。なにしろ販売当初はご丁寧にアメリカ政府の保証まで付いていたそうです。ここで一つ大切なことは、米投資銀行の儲けは債権を販売するときの売買手数料であるという事です。要は証券会社の営業みたいなものですね。彼らは顧客の株の売買取引を代行して、その手数料で稼いでいますからね。
   そして時が進んで2000年代初めに米国の住宅ブームが下火になりつつある頃、米銀がそれでももっと儲けようとして返済能力のない低所得者にまで住宅ローンを組ませていました。これが世にいうサブプライムローンですね。サブプライムローンとは所得の低い人に最初の数年は低金利で返済させる方式のローンですね。じゃあ、最初の数年における低金利期間が過ぎたらどうすんの?と思えば、それはお金を貸す側が、新たにお金を借り換えるという方法を用意していたそうです。そんなことが通用しちゃうというのもすごいんですが、そのサブプライムローンでできた危なっかしいMBSを何食わぬ顔をして売り続けたのです。そして次第にそのような形でできたMBSは売れ残りしし始めたそうです。そして売れ無くなったら売る方法を新たに考える!たくましいですよね!アメリカの投資銀行は!
   ではその売れなくなったものをどうしたのでしょうか?損切をして償却しちゃうなんてことはしませんでした。売れ残ったMBSを一度解体します。そして、解体されてバラバラになった個別の債権(個別の住宅ローンですな!)を再度組みなおして、そこに安全な国債なんかを入れたりもして全く新しい債券に作り替えてしまったそうです。それは債務担保証券(通称:CDO)と呼ばれるものです。お分かりかとは思いますが、価値のないダメな債権を組替えて新たに作ったゴミのような新しい債権はなんせ中身は変わらないのですから、それはほとんど詐欺ですよね!米国の投資銀行は『絶対安全』という謳い文句でこれらをAAAという格付けにして相場が大暴落をするその日まで世界中で売り飛ばしていました。それは実は格付けがBB以下の信用にならない金融商品だったらしいです。分かりやすく言うなら昔の雪印乳業などがやったコーヒー牛乳の偽装と同じですわね。消費期限の切れた古い牛乳を回収してコーヒー牛乳にして再度売っちゃう・・・。子供のころから愛飲してガブガブ飲んでいた私にとっては全く持ってけしからん話です。その味が忘れられないので今でも時々飲んでいますが・・・。(笑)
   そしてとうとう2008年に米銀が世界に売りつけていたMBSとCDOの多くが債務不履行(ディフォルト)になって紙屑になったという事が真相だったらしいです。要はサブプライムローンを組んで家を買った人たちが一斉に『もうあきませんわ!』と言ったかは知りませんが、大勢の人がローンの返済が出来なくなったという事ですね。そもそも住宅ローンを返さない奴なんていないという前提の思い込みが招いた悲劇です。そんな債権の運用利益を当てにしていた世界の年金や健康保険機構などのお金は一瞬にして数百兆ドルも消えたといわれています。モルガンスタンレーやバンクオブアメリカなどの大手投資銀行は基本的に債権の売買手数料で稼いでいたから債券そのものは持ってないので傷がつかなかったハズだったのでしょう。ところが破綻前にその屑のような債権(中身のないMBSやCDO)に対して空売りの方法を考えていた一部の投資家連中がいたのですね。ちなみに空売りとは株の売買でよくやる手法で、手元に無い株をよそから借りてきて、市場で高値で売りぬき、借りた当初の元本分の現金を株の持ち主に返して、残りの利益を自分のものにするという方法です。プロの投資家が使う方法です。
   そして債権の空売りとはピンときませんが、債権に保険をかけるという荒業を考えて空売りと同じ効果を考え出したのですね。その方法は、紙屑と思われる債権が売れている間は保険料を払い続けるが、売れなくなれば売れていた時と同じ価格で銀行に保障させちゃうという金融商品です。すごいこと考える賢い連中がいたもんです!もしこれを人間の人生で考えるなら生命保険のように考えればわかりやすいのかな?と僕は思っています。保険料を毎月払って、加入期間中にいざ自分が死んだら数千万の保険金が遺族にでるという感じですね。これが世にいうCDS(クレジット・ディフォルト・スワップ)です。生命保険がおりるときは自分は死んでいるので、自分にはお金が入ってこないですが、CDSは掛けた自分に返ってくる・・・。金のない僕にとってはそんなことはとっても出来ないのでチョッとイラっとする話ですが(笑)。実際の所、米銀は近い将来に起こりうる債権のディフォルト危機に直前まで気が付いていなかったようです。(しかし、自分達で売っている商品の中身が分からないとはどういう事なのかチョと理解に苦しみますね…。)
   だからこそCDSで空売りをしたい連中に保険料を払わせてそこでも儲けようとした為に、債券がディフォルトした時の多額な保証金(保険金)の支払いで沈みかけたというのも皮肉ですよね・・。一粒で二度おいしい思いをしようと目論んだのですね。こうやってリーマンショックでは債権を売った方も買った方も同時に大きくコケたといった悲劇になったのですね!でもその陰にはほんの一部の空売りをした投資家だけがぼろもうけしている・・・。日本のバブル崩壊と一緒で、相場が大きく崩れたり、景気が急速に悪くなってもどこかに必ず勝ち逃げしている奴がいるという事ですね。投資銀行のリーマンブラザーズは騒動が起こってすぐに資金が枯渇してしまいCDSに対する支払いが出来なくなりあえなく倒産。その倒産があまりにも象徴的な出来事だったので、彼らの社名をもってその出来事が後世に名を残す事になったのも本当に皮肉ですよね。モルガンにいたっては、その後東京三菱銀行から無償で90億ドル(約1兆円)の資本を投下されることにより一息ついて生き延びるとは何とも言い難いですよね。でもここで邦銀の登場とは目を剥いてびっくりしました!
   上記のリーマンショックの件ですが、あの時に疑問に思って少しでも調べたらプロでなくても見通すことができたのではないかと思えてならないのです。翻って日本では年金基金(機構)の運用が我々の老後にかかっているといわれてもねぇ・・永遠に景気が緩やかにでも拡大していくことを前提にされても困るよねぇ・・・。役人が運用するですよ!ちょっと信用できませんね・・・。役人にとっては税金も含め、年金基金なんか自分の金じゃないから扱いはきっと雑だと思うのは僕だけでしょうか?でも日本人は慎重ですからこんなことにはならないんじゃないかなとも思ってみたりもするのですが・・。そうなると政府が国民にNISAからでもいいから“投資を始めろ”っていうのも分からなくもないよね。それは決して公的機関の資金運用の失敗の可能性という事だけには限らないと思います。国家として国民に対して“ゆりかごから墓場まで”という体制はいつまでも維持できないというメッセージでもあるのかなと思ってしまいますよね!

   この話を一つの教訓にするならば、こういう事だと思うのです。それは、何かの物事に一時でも自分の人生を委ねるときには一度立ち止まって考えないといけないという事なんですね。『複雑そうな話で分かんないな・・・でも皆がやってるから大丈夫でしょ!』とか、『心配しすぎだよ!これって世の中の常識じゃん!』と考えがちですよね。僕にとっては今使っているパソコンのシステムこそがそうなんですけどね・・(笑)。専門的な言葉や用語を使われると途端に構えてしまいがちですが、実は話の構造はそう難しく無いという事が多いのでは?と思うのです。人の頭はそんなに複雑な事は理解できません。そして基本線がどうなっているか分かればそれで多くの事は判断出来そうですよね。ここで大切なことは歴史上の多くの出来事や世の中の多くのルールが同じような話の構造になっていたりすることです。上のリーマンショックでは債権をお金と同等に考えるなら、お金だけを使ってお金を儲ける方法は数えるほどしかないという事を示唆していると思います。
   では。どうやってそのような方法を身に付けるのかと言えば、やはり過去に学び、そして人々の心の在り方を学ぶという事でしょうね。それは何も人を出し抜けと言っているのではないんです。自分の目で見て心で感じて自分で自分の指針を見つけて人生を歩んでいくという事が大事だという事です。多くの人と携わり、過去の人が書き残した多くの物を読み大切なことが何なのかを考え抜く・・、そしてそれは何回も失敗を繰り返しながら誰もが徐々に身に付けていく事だと思うのです。そうすれば世間の習慣や風評にいたずらに惑わされないのではないんじゃないかと思います。そこには人のいう事にもちゃんと耳を傾けることができるという柔軟性も併せて必要と思います。そうすることによって人は社会で生きていくうえでの多くの不安から少しずつでも解放されるのではないでしょうか。


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