#エッセイ(社会的観察)『ご都合主義的な慈悲』

 休みの日に家族で近所のファミレスやデパートの上のレストランでランチを取るという事をチョットした週末の楽しみにしています。昼飯時のレストランは大体どこでもランチメニューを用意しており、夕方以降の値段よりも割安で美味しく食べられます。私は基本的に外食に関してはあまり冒険をしない方なので、いつも同じお店に行ってしまいがちなのですが、最近では今まで入ったことが無いお店にチャレンジして新しいお店を開拓中です。当たり前のことなのですが、同じ蕎麦やとんかつでもお店が違えばやっぱり味は結構違うもんなんですね!そばつゆ一つ、とんかつの揚げ方一つでも“こんなに違うかね?”とその味の違いに驚きながらそれぞれの味を楽しみ、それと同時にそれぞれのお店の雰囲なんかも楽しんでいます。
 土日の昼下がりに外が晴れていて春の日差しが柔らかく店内に差込んでくるテーブルで自分の注文した料理を家族と待っている時間は至福の人時です(美味しくて有名だけど、ギトギトの油ぎった床のラーメン屋で注文の品を待っている時間だって至福な人時ですけどね・・・)。そんな家族と料理を待っている間にふと心の中にある感情がよぎったりします。それは家族と会話をしながら何となくよそのテーブルに目をやると、そこには様々な他のお客さんたちがいます。小さな子連れの家族や老夫婦、または年頃の娘さんとそのお母さんだったりと、本当に様々な人たちなのですが、共通して言えることは、どこのテーブルの人かちもみんなそれなりに楽しそうに見えるという事なのです。そんな彼らを見つめてしまうと、“この人たちにもこの先の生活で良い事が沢山あるといいのにね・・・”と何だか天使にでもなったかのような気分で見てしまうのです。内気そうな眼鏡をかけた女の子がお母さんと笑顔で会話している姿なんかを見ると、“この子は学校でもみんなと楽しくやっているのかな?いじめなんかにあってないかな・・・”と勝手に心配してあげたり、また中年のおばさんが2,3人で談笑している姿を見ると“楽しそうでそりゃー結構!どんな話で盛り上がっちゃってるのかな?(笑)”と勝手な事を頭の片隅で思いながら僕は自分の家族と会話をしていたりします。その瞬間は、それはそれで自分の本心だと思っているのです。しかしお店を出て夕方頃になるとちょっと考えてしまう事があるのです。それは、“あれ?さっきは知らない他人に対してあんなこと思っていたけど、俺はいつもこんなに優しい人間だったかね?”と。
 普段の生活で満員の通勤電車の中や、人ごみの雑踏で知らない人にぶつかりそうな時なんかはかなり意地悪な感じで他人を見ているような気がするのです。特に満員電車で目の前に若い女性が立っていて、チョットした瞬間に相手の女性が嫌な顔をしたように感じるとムッとしますし、街角で急いでいる時に見知らぬ男性と肩が触れそうになった時なんかに軽く舌打ちをされるとそれはそれで腹を立てていたりするのです。もちろん喧嘩なんかをする気はさらさらないのですが、その場で相手に何も言えないから余計に気分が悪くなったりするのです。ではこのように街の中で苛立ちを感じてしまう人たちと、ファミレスで見かける人たちは何が違うのでしょうか。もちろん同じ人たちを場所を変えてみている訳では無いので、何とも言い難いのですが、でもどちらの状況であっても、そんな彼らも普通に暮らす人たちには変わりありません。当然私自身も気が付いてはいるのですが、その違いはその時の気分に他ならなないのだと思うのです。のんびりゆっくりと過ごしている時には他人に対する眼差しは自然と優しくなるでしょうし、またその瞬間に見かける人たちも同じようにゆっくりと過ごしていますので、醸し出す雰囲気は優しいでしょう。逆に何かに追われて過ごしている時は、すれ違う知らない他人に対してまず関心を持つことはないと思いますので、そんな瞬間に自分の意識に飛び込んでくる人は瞬間的に自分にとって邪魔に感じてしまうのだと思うのです。

 本当はいつでも、誰に対してでも一定の感情で同じような気持ちで望めないといけないなとは思っています。もちろん敬意を払うべき人には丁寧に、仲間や友達にはそれなりの親しみを持ちつつ、TPOをわきまえつつも同じような心持で他社に臨むという事は大切なんじゃないかな?と思うのです。“自分の気分が良い時だけ慈悲の眼差しを他人に向けるとは・・・オレって奴はなんてご都合主義なんだ!”と軽く自己嫌悪に陥ったりするのです。いつでも今日が一番いい日と思えるなら、知らない他者に対して常に優しい気持ちにもなれるのでしょうが、日々の生活の中で気持ちの乱高下に引っ張られて慈悲の心と意地の悪い心をコロコロ入れ替えていると、いつかそううちに罰が当たるのではないかと内心ヒヤヒヤしながら過ごしている今日この頃です。自分の心の内の感情が自分の中の世界を彩るので感情を上手にコントロールすることは肝要なのでしょうけど・・。

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