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第41話 止まった部屋

 部屋の中は、いつもと変わっていなかった。
 どうやら、部屋はそのままにしてくれているらしい。
 ただ、ダンボールに入った学校の教材だけが、隅に置かれているのが気になった。

「私、本当に。」

 死んだんだ。そう口に出していたのは、無意識だった。
 自分が死んだ事を信じたくなくて、ずっと否定していた。
 だけど、遺影が、家族が、自分の部屋が、その現実を突きつけていた。

「私、じゃあなんでまだ消えてないんだろ。それとも、死んだ人はみんな幽霊になるのかな。」

 そして、誰にも認識されずにずっと一人で。

「それは、」

 嫌だなぁ。

 タンスの引き出しを開ける。私服に着替えようと、服を触る。

 すると、いつの間にか、今まで着ていた制服が着ようとした服に変化していた。

「なにこれ。」

 何故か、泣けてきた。

「本当に、なによこれ。」

 零れ落ちた涙は、タンスの服に触れる前に空中で霞のように消えていった。

 タンスの引き出しを戻して、立ち上がる。自転車と、家の鍵をダンボールの中から見つけ出し、ポケットに入れる。

 その後、簡単なメモ書きを残して、その部屋を後にする。

 彼は先に外に出たようだ。

 母が料理をする後ろ姿をじっと見つめる。
 もう、会話もする事は出来ないけど。 
 いつか、メモに気づいたとき、私のことを思い出してくれたら、それでいい。

 これは、ルール違反なのかもしれないけど、それぐらいは許してほしい。
 
 未練を断ち切るように、目を逸らし、玄関へ向かう。

 そして、扉を開いて彼のもとへ向かう。

 ガチャリと、扉が閉まる音がする。

「・・・・・・恋?」

 母のそんな問い掛けが、扉の向こうで聞こえた気がした。
 

「あなたの心を揺さぶる物語を。」  あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。  私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。  よろしくお願いします。