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第49話 消失

「「ずっと一緒にいられますように。」」

 幾度も願うその願いを星達は聞き届けてくれたのだろうか。

 僕達が、それを知る術は結局この時間が終わりを迎える時までないのであろう。

 その事を知ってか知らずか、僕達は願い続ける。その時間が来ませんようにと。
 僕達の世界に終わりの時が来ませんようにと。

 やがて、星々の流れがまばらになった頃、

「やっぱり難しいですね。」

 そう言って、尾張さんの方を見る。

 彼女は、まだ空を見上げながら、そうね。と呟いた。

 その姿は星々に照らされて幻想的なまでに綺麗だと思えた。

 彼女を通して見える周囲の景色は、水面に反射した星の光で照らされ、天の川の中に佇んでいるように錯覚させた。

 そう。錯覚であったならばどんなに良いか。

「尾張さん?」

 彼女の姿は、先程までとは明らかに違っていた。

 その面影が徐々にではあるが薄く透明になってきていた。

「尾張さん。体が。」

「紀美丹君。」

 尾張さんは空を見上げていた顔をこちらに向けて一言だけ呟いた。

「キスしましょうか。」

 その表情は寂しげで、何かを悟ったように見えた。
 それを茶化すことは僕には出来なかった。

「僕は、嫌です。ファーストキスは、もっとちゃんとした、良い雰囲気の中でするって決めて、」

 僕の台詞は、最後まで言い切ることは出来なかった。

「ごめんなさい。私には、もうその時間は残されてないみたい。」

「尾張さんは本当に酷いです。」

 僕のファーストキスは、僕の意思とは関係なく、唐突に奪われた。
 ただひとつの救いは、相手が好きな人だったことだろう。

「紀美丹君。椎堂さんとも仲良くね。」

「なんですか、いきなり。」

 尾張さんは、微笑む。

「私がいなくなっても、ちゃんと毎日学校行くのよ?」

「僕が尾張さん目当てで学校行ってた、みたいに言わないでください。」

 あながち間違いじゃないけど。

「私の後を追おうとか考えちゃダメだからね。」

「考えたことも、ないですよ。」

 尾張さんの体が更に薄くなっていく。

「本当に泣き虫なんだから。」

「泣いて、ないですよ。」

 尾張さんの輪郭がぼやけていく。

「ずっと好きよ。紀美丹君。」

 そう言った彼女の姿は僕の目の前から消えた。
 

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