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第14話 幕間:初デート後半

 テントを購入した帰り道、どこかでお昼ご飯を食べる事になった。

 なにを食べるか、話し合ってるところへ、

「へっへっへ綺麗なねぇちゃん連れてデートたぁみせつけてくれるじゃねぇか?」

「俺達にもちょっと付き合ってくれよ?」

 と二人の馬鹿がテンプレな発言をはきつつ目の前に立ちはだかってきた。

「あなた、・・・・・・いや、何でもないわ。」

あの、尾張さんが口をつぐんだだと・・・・・・。

「昔ね、学んだのよ。」

「学んだ?」

「小学生の頃隣の席に明日葉君っていう男の子がいたの。」

 尾張さんは訥々と話し出す。

「その子はあまり勉強ができないこだったわ。」

「まあ、尾張さんと比べたらだいたいの人は勉強出来ないでしょうが。」

「えぇ、そうね私は昔からお利口さんだったもの。」

 謙遜しないなぁこの人。

「ある日明日葉君が先生に当てられて掛け算を解いたんだけど答えが間違っていたのよ。だから、わたし、そこの答え間違ってるわよ?こんなに簡単なのもわからないなんて、貴方馬鹿なの?
って明日葉君に言ったの。」

「それで?」

「彼、一瞬真顔になったと思ったらわたしの頭をはたいてきたわ。わたし、本当にいきなりだったからびっくりしちゃって少し涙目になっちゃったわ。」

「尾張さんが?」

「なにか?」

「いえ。」

「その時は、先生が明日葉君に注意してその場をおさめたんだけど・・・・・・。衝撃の事実だったわ。頭の悪い人に貴方頭が悪いのねっていうと怒るのよ。」

「そりゃあ、明日葉くんもいきなり罵倒されたら怒るでしょうよ。」

「別にわたしは事実を言っただけなのだけれど?」

「むしろ事実を言われちゃうと明日葉くんに逃げ場ないですから。心が叫びたがっちゃいますから。」

「だからといって、矛先をこちらに向けないで欲しいわよね。」

「むしろ、原因に向かうだけましなのでは?」

「いいえ、原因は彼の頭の悪さよ?」

 そう言えちゃう尾張さんマジぱねっす。

「だから、わたしはそういう人や場面に出くわしたら、この人は頭がかわいそうな人なんだなぁって哀れに思いつつ何も言わずにその場を去ることにしているわ。」

 そういうと、尾張さんは、きびすを返して来た道を歩きだそうとする。
 それを目の前の男は、慌てて遮ると、

「おい、なんかよくわからんが、俺たちのこと馬鹿にしてない?」

「まて、確かにこいつは馬鹿だが、そこに俺を含んでもらっては心外だな。」

「んだとてめぇ?」

「やんのかこら?」

「なんか、喧嘩はじめましたね。」

「目標に対してすぐ脇道に逸れる。頭がかわいそうな人たちの典型ね。」

「「あぁ?!!」」

 馬鹿、改め頭がかわいそうな人たちは、経験則からか自らへのネガティブな発言には敏感なようで、

「あんまり調子こいてっといてこましたるぞわれぇ!」

 等と発言しつつ、こちらとの距離をはかっている。
 いてこましたるって意味わかって使ってるのかなこの人?

「まあ、落ち着いてくださいよ。尾張さんもあんまり挑発しないで。」

「私は、事実しか言ってないわ。」

「真実は時に人を傷つけるんですよ。」

「おい、こら!俺らを無視してんじゃねぇ!」

「ちょっと待った!」

「あぁ!?」

「その辺にしておいた方がいいですよ?でなければ、僕の最終兵器を出さなければならなくなります。」

「あぁ?出してみろや!」

 ふぅ、やれやれ。これだから、頭がかわいそうな人たちは。

「仕方がないですね。あなたたちは、これで終わりです。」

 そう言うと、僕は両膝を曲げ、内股に立ち、両手を顔の前に構える。

「それは!?サンチンの構え!?てめえ、武術家か!」

 頭のかわいそうな人たちは、僕の構えを見てそう思ったようだった。しかし、それは間違いだった。

 僕は、大きく息を吸うと、一瞬で目の前の二人を叩きのめす。

 ということは、全くなく、尾張さんがいつのまにか呼んできた、警察官に二人のかわいそうな人たちはお持ち帰りされていった。

「サンチンの構えなんて、よく知ってたわね紀美丹君。」

「サンチンの構えってなんですか?」

「さっき自分でしてたじゃない。」

「いえ、あれはただ、お巡りさんを呼ぼうとして口の前に手を当てていただけです。」

 だいたい、ただのゲーマーに武道経験を期待する方が間違っている。

「そんなことより、ご飯食べません?」

 ファミレスに入り、注文を済ませた後、何の気なしに話し出す。

「ファーストフードってあったかいとそれなりに美味しいですけど、冷めると何この残飯・・・・・・てなりますよね。」

「冷めたファーストフードなんて、食べたことないわね。」

「さすが、お嬢様。」

「やめてちょうだい。」

「そんなお嬢様なら、世界で一番美味しいものにも一家言お持ちとみました。」

「なによいきなり。」

「ほら、世界で一番売れているから、世界で一番美味しいものはハンバーガーだって話があるじゃないですか。」

「資本主義の犬の言いそうなことね。」

「でも、ハンバーガーって、あったかいとそれなりに美味しいけど、冷めると美味しくないんですよ。
だから、僕は思ったわけです。冷めても美味しいものが一番美味しいものだと。」

「何故そうなったかはともかく、その理屈だと、アイスクリームが一番ね。」

「待って。」

「待たない。」

「3秒ルール。」

「もう3秒経ったわ。」

「待った。」

「待ったは一回までよ。今から、使っても戻れないわ。」

「聞いてない。」

「これで、世界で一番美味しいものはアイスクリームにきまったわね。」

「それはおいといて。世界で一番美味しいものは、温度が変化しても味が落ちないものだと僕は思うわけですよ。」

「宇宙食ね。」

「待って。」

「待ったは一回までと言ったでしょう。」

「聞いてな・・・・・・。」

「言いました。」

「はい。」

「つまり、宇宙食のアイスクリームが世界で一番美味しいものということね。」

「何それ。食べたことない。」

「以外と美味しいのよ?」

 その後、購入したテントを旧文芸部室に置いてそこで、尾張さんと別れた。

 学校からの帰り道、何の気なしに、ハンバーガーショップの横を通ると、見知った顔がレジに並んでいた。

 ちょっと頬が赤く染まっていたのを見て、ニヤニヤしていると、ぷいっと視線を外された。

 その日に食べた夕ご飯はいつもより美味しく感じた。

「やっぱり世界で一番美味しいものは、おふくろの味だな。」

 と呟くと、母親がシラッとした顔で、

「マッサマンカレーだよ。」

 とか言うから、ミシュランの犬がと心の中で毒づいた。

 僕が、生きた尾張さんと会ったのはこの日が最後だった。

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