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第42話 私服

 マンションのエントランスで下を向いて尾張さんを待つ。
 先程の、彼女の母親とのやりとりが思い出される。
 何が正解でどこを間違ってしまったのか、いくら考えても答えは出なかった。

 しばらく考え事をしていると、いつのまにか尾張さんが後ろに立っていた。

「おまたせ。」

「いえ。えっ!?」

 尾張さんの姿は、桃色のアウターにスカートを合わせた私服だった。
 
「尾張さん私服持ってたんですか!?」

「あなたが私をどう見ていたのかなんとなくわかった気がするわ。」

 私服を持ってないわけがないでしょう。そう言いながら、踵を返して外へ歩いていく。

「いや、そもそも制服以外着れたんですか?」

「よく分からないわね。うちにあった服を触ったら自然とこの格好になっていたわ。」

 なにその便利機能。ちょっと羨ましい。

「もしかして、僕の制服に触っても変化とかするんですか?」

「やらないわよ?」

 にべもない。

 尾張さんは、駐輪場から自転車を持ち出してくる。

「ほら、さっさと行くわよ?」

 尾張さんが自転車に跨り、先を走る。

 これ、僕以外が見たら自律走行する自転車とかいうSFな存在になってそう。
 僕は少しワクワクしながら、尾張さんの背中を追いかける。

 夕暮れに赤く染まっていた空は、いつのまにか日が落ち、青い闇が迫っていた。

 ビル街を抜け、郊外に出ると周りに自然が増えてくる。

 空には、一番星が輝いていた。

「あなたの心を揺さぶる物語を。」  あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。  私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。  よろしくお願いします。