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第47話 独白:私の世界の終わり2

 ナイフが何度も振り下ろされる。
 自分の身体に大きな穴がいくつもいくつもあけられていく。
 その感覚は気持ち悪くて。痛くて。吐きそうで。
 痙攣する手足が自分のものではないように勝手に動く。
 それでも男は、何度も何度も私に刃を突き立てる。

 まるで、憎しみでもぶつけるように。

 なんだかとても寒い。
 寒くて寒くてたまらない。身体だけでなく、心もどんどん冷えていく気がする。

 私の人生ってなんだったのかしら。
 失われていく意識の中、少女は思う。

 小さな頃から教師や親にはよく褒められた。良くできたね。君は天才だ。そんな言葉を言われ慣れて、私自身、自分の事を天才なんだと自覚しはじめた。

 だけど、それと同じくらい同級生や友達だと思っていた人達には言われた。調子のってる。うざい。そんな嫉妬からくる感情を気にしていてもキリが無いから中学生に上がる頃には、彼女達とは自然と距離を置くようにしていた。

 自分から距離を置こうと思ったわけではないけれど、無意識のうちに相手を試すような事を言っていた気がする。

 殆どの人はそれで距離を置くようになった。一部の例外もいたけど。

 それが寂しくなかったと言えば嘘になる。別に私は一人でいるのが好きなわけじゃない。
 友達と楽しくお喋りだってしたいし、お弁当の交換だってしてみたかった。
 
 それに、好きな男の子の話をしたりするのも。ちょっと恥ずかしいけど憧れた。
 結局、一度もそんな話をする機会はなかったけれど。

 いつのまにか、手足の震えも止まっていた。
 あんなに痛かった身体の傷ももう何も感じない。

 この人はいったい誰なんだろう。なんで私にこんな事をするのかな。
 そんな疑問は、きっと私にはもうわからない。

 どうせ終わるなら、星を見ながらがよかった。
 紀美丹君と、流星群見に行きたかったな。

 私の世界はここで終わった。

 男は立ち上がると、動かなくなった少女を見下ろす。
 少女の目には既になんの光も映っていない。

 少女の頬を水滴が流れる。
 それはまるで、物言わぬ少女の流す最後の涙のようだった。

 男は少女の服で、ナイフに付着した血液を拭うと、足早にその場を後にする。

 勢いを増した雨が、冷たくなった少女の体に打ち付ける。
 雨は、まるで男の味方でもするように、その痕跡を洗い流していく。

 嵐が全てを覆い隠す。
 
 子猫の声はもう聞こえない。

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