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第71話 いつもの放課後

 僕が学校に復帰してから数日。

 すっかりいつも通りになった放課後、旧文芸部の教室には、僕と尾張さんの他に、椎堂さんも入り浸るようになっていた。

「ねぇ、紀美丹君。」

「なんですか?」

 椎堂さんが、何の気なしに聞いてくる。

「尾張さんの事、私も見れるようになりたいんだけど。」

「それは、オススメしませんね。」

 椎堂さんは、不思議そうに首を傾げる。

「どうして?いつまでもメッセージアプリで会話するのってめんどくさいんだけど。」

「まぁ、それはそうでしょうけど。でも、尾張さんを見る条件がですね。」

 椎堂さんは、その条件を聞いて、複雑そうな顔をする。

「えぇ・・・・・・。確かにそれはちょっと。」

「ですよね。」

 椎堂さんは、少し考えるような顔をすると、

「そういうことね。」

 と、なにかを納得したようで、

「大変だったね紀美丹君。」

 と、僕の頭に手を乗せてきた。

「なにしてるんですか。椎堂さん。」

「別に。」

 なにやら、背後から圧力を感じる。

「紀美丹君。」

「・・・・・・はい。」

 後ろを振り向くのが怖い。

「紀美丹君。浮気の基準ってどこからだと思う?」

 尾張さんが、なにやら喋りだす。

「デートしたら浮気とか、キスまではセーフとか人によっていろんな基準があると思うの。でも、結局基準は一つなのよね。」

 尾張さんは、一度間をとると、後ろから僕を抱きしめて耳元で囁く。

「浮気された方が浮気だと思ったら、それはもう浮気なのよ。」

 おかしい。側から見たら、二人の女子高生に抱きしめられながら頭を撫でられるという、ハーレムみたいな光景になっているはずなのに、先程から冷や汗が止まらない。

 ここ数日。椎堂さんは、ことあるごとに僕の頭を撫でるようになっていた。
 そして、その度に尾張さんの機嫌が上昇と下降を繰り返すという僕の精神衛生上よくない状況が続いている。

「椎堂さん。はっきりさせましょう。」
 
「なにを?」

 不思議そうに聞く椎堂さんから目を逸らしながら、

「僕と尾張さんは付き合っています。」

 背後で尾張さんがフフンっと笑っている気がする。

「だから?」

「いや、だからじゃなくて。あの、こういう事をされると尾張さんが僕の精神をガリガリ削ってくるのでやめていただけると。」

 椎堂さんは、少し考えるそぶりを見せると、

「じゃあ、代わりに私が紀美丹君を癒してあげるよ。」

 うん?いいのか?まあ、それならいいのかもしれない。

「待ちなさい。私を精神汚染物体みたいに扱うのはやめなさい。」

「はっ!?いつのまにか、椎堂さんの誘惑に屈していた。」

 くっ、汚い。頭を撫でながら甘い言葉で純粋な少年の心を弄ぶなんて。

「まぁ、冗談はおいといて、尾張さんを見る方法他にはなにか無いのかな?」

「試しに、これ見てみたらどうかしら?」

 尾張さんが、なにやら動画のURLを送ってくる。
 そこに映っていたのは、外国の紛争が映った動画だった。
 
「映画ですか?」

「本物よ?」

 なんでそんな動画持ってるんですか。僕のそんな視線に気づいたのか、

「ダークウェブって色々な情報があるのよね。」

 なにしてんだこの人。

 椎堂さんは、動画を見終わると、

「それで、あとどうすればいいの?」

 と聞いてくる。どうやら、特に効果はなかったようだ。

「やっぱり、実際に経験しないと意味ないのかしらね。」
 
「じゃあもう、あれしかないですね。」

 気は進まないですけど。少年は、そう呟くと、窓から外を見つめる。

「あなたの心を揺さぶる物語を。」  あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。  私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。  よろしくお願いします。