第43話 流星群
重い自転車のペダルを踏み抜く。
坂道を登ると、街の明かりはもう殆ど届かなくなっていた。
自転車のライトが、前を進む尾張さんを照らす。
その姿は、薄ら透けて見えた。見間違いだろうか。目をこする。
次に目を開いた時、空に広がる満天の星空が目に入った。
それは、街中では決して見れない。自然の光の海で、今にもこぼれ落ちそうだった。
「紀美丹君そろそろよ。」
どうやら、テントを張る時間はないようだ。
今にもこぼれ落ちそうだった星空に、一筋の光が線を描いた。
尾張さんが自転車を止める。
それに合わせて、僕も足を止めた。
その場所は、周囲を森に囲まれた棚田だった。既に収穫を終えられた棚田には昨日の雨で水たまりが出来ていた。
尾張さんは、自転車をガードレールに立てかけて、棚田の畝に降りていく。
「尾張さん?」
「こっち。」
疑問に思いながら、尾張さんの後を追う。
畝に降りた尾張さんの横に並ぶ。
「紀美丹君来たわ。流星群が。」
尾張さんに促され、空を見上げる。そこに映された光景に僕は言葉を失った。
溢れそうな満天の星空からは、一つまた一つと流星がこぼれ落ちる。
それは、時を経るごとに数を増やし、やがて、星空全体が今にも降ってくるのではないかと錯覚させるほどの量の星が流れ始めた。
「願い事しましょうか。紀美丹君。」
尾張さんが呟く。
「あなたの心を揺さぶる物語を。」 あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。 私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。 よろしくお願いします。