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第10話 話がある

 翌日の始業前。

 僕は、隣のクラスの椎堂-シドウ-さんを訪ねた。

 その辺を歩いていた、話しかけやすそうな男子に、椎堂さんを読んでもらう。

 机に座り、教科書を読んでいた、彼女は、僕を一瞥すると。微妙そうな表情をしてはいたものの、とりあえず、話を聞いてはくれた。

「なにかよう?」

「ちょっと、話したいことがあるので、放課後に旧文芸部の教室に来てくれませんか?」

「話したいことって・・・・・・?ここじゃダメなの?」

 渋る彼女に、告げる。

「尾張さんの事なんです。」

 それを聞いた椎堂さんは、唇を噛むと、

「わかったわ。」

 とだけ言って、机に戻っていった。

 いつもより、長く感じた授業がようやく終わり、放課後。
 旧文芸部室で、椎堂さんを待つ、少年と少女は、緊張からか、どうでもいい雑談に興じていた。

「ねぇ。」

「はい?」

「理想の告白台詞ってどんなの?」

「なんですかいきなり。」

「あなたも将来するでしょう。告白。」

「しないかもしれませんよ。」

「一生童貞なのね。」

「僕が童貞かどうかはともかく、理想の告白台詞なんて、考えたこともないですよ。」

「つまらない男ね。」

「今の発言は傷つきましたよ。」

「ふぅ。」

 やれやれといったポーズで見下ろす尾張さん。

「わかりました。じゃあ今から考えるのでさっきの発言訂正してください。」

「面白かったならいいわよ。」

 少し考えて、尾張さんの瞳を見つめながら、

「僕は、生まれた時からキミニコイをしていました。」

「それは嘘ね。」

 否定が早い。

「嘘じゃないです。」

「告白台詞が駄洒落ってどうなのかしら。」

「駄洒落とか言わないでください。ウィットに富んだジョークじゃないですか。」

「まあ、ちょっとだけ面白かったから、さっきの台詞は訂正するわ。」

 そういうと、尾張さんは肩にかかった髪を払い、

「あなた、ちょっとだけつまらない男ね。」

「なんで、ちょっとしかランクが上がらないんですか。」

「ちょっとだったからよ。」

 全く納得がいかない。

「じゃあ、尾張さんの告白台詞はどんなのなんですか?」

「いい女は告白しないのよ。」

「尾張さんはいい女ではないと思います。」

「傷付いたわ。」

「ごめんなさい。嘘です。とても魅力的だと思います。」

 意趣返しのつもりで言ったが、そんな表情をされてはすぐに引かざるを得ない。

「あら、そう。照れるわね。」

 尾張さんは、すぐにしらっとしたいつもの表情で、

「褒めてくれたお礼に、特別に私の告白台詞教えてあげるわ。」

 と言った。

「マジですか?尾張さんのことだから、終わりと絡めたりしそうですよね。
今日で世界は終わり。恋に落ちた貴方と迎えるならそれでも構わない。
みたいな、どこぞの映画のキャッチコピーみたいなのだったりして。」

 そういうと、尾張さんはニッコリと笑い、僕の耳元に口を近づけて、

「好きです。」

 と言った。

 全身が一瞬で赤くなるのを感じた。何も言えないでいる僕に、

「シンプルイズベストよ。」

 と、勝ち誇ったように言うのだった。

「ほっぺゆでダコみたいね。」

 そう言いほっぺを突いてくる。尾張さん。

「やめてください。僕のライフはもうゼロです。」

 ニヤニヤしながら手を引っ込める尾張さん。

「なにしてるの?」

 ノックの音はきこえなかった。

 いつのまにか、ドアの前に立っていた椎堂さんは、顔を真っ赤にしている僕を若干引きながら見ていた。

「あなたの心を揺さぶる物語を。」  あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。  私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。  よろしくお願いします。