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第50話 泣きたいくらいに

「僕も好きでした。」

 その言葉は尾張さんに届いたのだろうか。

「尾張さん?」

 その問いかけに応えるものはもういない。

 先程まであった彼女の手の感触はいつのまにか消えていた。

 手探りで、その面影を探す。しかし、そこにいたはずの存在に手は届かず、僕の両手は空を切る。

 もう会えなくなってしまったその人の残り香をそれでもどうにかつなぎ止めようと手を伸ばす。

 それが叶わない事を心のどこかで気づいていた。
 それでも、諦められず伸ばした手で自らの肩を抱く。

 消えてしまった彼女の痕跡が消えてしまうのを恐れるように。

 どのくらいの間そうしていただろう。

 いつのまにか流星群は降りやんで、空にはいつも通りの星空が戻っていた。

 僕の心残り。彼女との約束は果たされた。
 その約束が彼女の心残りだったのかはわからない。
 だけど彼女が消えてしまった事実だけは変わらない。

 それが本当に存在していたのか、それとも僕の妄想だったのか。今となってはもうわからない。

 けれど、僕が抱いていた感情だけは本物だから。
 彼女の言葉を思い出す。

 頬を伝う水滴を拭いとり、地面を踏みしめながら歩き出す。

 それがたとえ、妄想の産物だったとしても。
 彼女の言葉は、僕のこれからを縛る鎖であり、同時にきっと僕の道標になるだろうから。

 こうして僕と彼女の世界は終わりを迎えた。
 だけど、終わって欲しくはなかった。

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