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第16話 好きだったのよ

「私ね、尾張さんのこと好きだったのよ。」

「いきなりそんなカミングアウトされても困るんですが。」

 そう返した僕の言葉に、椎堂さんは苦笑いで答えた。

「別に、恋愛感情とかじゃないわよ。友達として。」

 好きだった。と椎堂さんは付け足した。

「でも、だからこそ、自分の不甲斐なさを許せなかった。私ね、尾張さんと中学校も一緒だったのよ。」

 彼女は自嘲気味に話す。

「尾張さんって、あんな性格だったじゃない。だから、中学生の時も周りから浮いていて、でも、なにやらせても完璧にこなしちゃうから、嫉妬されて嫌がらせされたりして。それでも、そんなの意に介さない。」

 そこに憧れた。彼女の隣に居たいって思った。そう言った。

 尾張さんの表情は、僕からは見えない、しかし、耳が赤くなっているのはわかった。

「だから、いっぱい努力したわ。運動はあまり得意じゃなかったから、せめて勉強で彼女と並び立てるぐらいになってやろうって。だけど、結局最後まで尾張さんには勝てなかった。」

「尾張さんがテスト前に猫動画見てたって言った時、思っちゃったのよ。私、何やってんだろうって。努力しても、届かないそんな空の上の人の隣に立ちたいだなんて。」

 本当に、馬鹿みたい。その言葉は、僕の感情をささくれさせた。彼女の自虐的な言葉は、彼女に向けられているようで、その実、僕にも向けられているように思えた。

「そう考えちゃったら、もうだめね。尾張さんと顔を合わせても、どんな態度をとればいいか、何を話せばいいかもうわかんなくなっちゃった。」

「だから、尾張さんが亡くなったって聞いた時、悲しかったし、犯人が許せないって思えたけど、でも、少しホッとしてる自分に気づいたの。」

 もう、努力する必要がなくなったんだって。と、話す彼女の顔は、今にも泣き出しそうに見えた。
 だからこそ、僕は、言わなければいけないと思った。

「最低ですね。椎堂さん。」

「知ってる。」

「尾張さんは、そんなこと望んでなかったと思います。」

「わかってる。」

「尾張さんは、僕に言いました。もっとうまく人と関わりたいって。」

「・・・・・・。」

「尾張さんだって好きで天才になったわけじゃない。なんでも出来るからって、ひとりでいたいわけじゃない。あなたが、友達としてすべきだったのは、彼女に追いつくことじゃなくて、ただ隣にいることだったんじゃないですか?」

 友達でいるのに、資格なんていらない。そう、吐き出すように言った言葉は、椎堂さんに言っているようで、しかし、自分に言い聞かせているようだった。

「ところで、二人とも私がここにいること忘れてないかしら。」

 忘れてた。

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