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第38話 椎堂と紀美丹の休日

 勉強を日々の日課にするようになったのはいつからだろう。

 きっと、彼女と出会ってからだったと思う。
 彼女に追いつきたいだなんて、我ながら子供っぽい動機だと思う。

 彼女が亡くなってからも、その日課は続いていた。
 目標が無くなっても、一度習慣になった行動はなかなか変えられなかった。
 
 日課の勉強をしていると、スマホが鳴った。
 今日はメッセージが多いなぁ。そう思いながら、スマホを操作する。

『こんにちわ。今、お時間大丈夫ですか?』

 紀美丹君だった。この人メッセージでも敬語なんだなぁ。

『大丈夫だけど。どうかした?』

 返信はすぐにきた。

『いえ、少々確認しておきたいことがありまして、今日尾張さんからメッセージとかきたりしました?』

 この人わざわざ墓穴を掘りにきたのかなぁ。

『どうして?』

『いえ、大した事ではないので、来てないなら気にしないでください。』

 どうしようかなぁ。でもこれは仕方ないよね。

『来たよ。メッセージ。』

『・・・・・・ちなみに、内容を聞いてもいいですか?』

 これは内心焦ってるなぁ。紀美丹君。

『んー。秘密かな。』

『また、秘密ですか。』

 また。また、ね。そういえば、昨日も秘密って言ったんだっけ。

『乙女には秘密がいっぱいあるんだよ。』

『おと・・・・・・め?』

 このやろう。なんだその疑問符は。

『何か言いたい事でもあるのかな?』

『いえ、椎堂さんに乙女のイメージはあまりなかったので。どちらかというと・・・・・・。』

 おい。途中で止めるな。

『どちらかというと?』

『僕の口からはとても言えません。』

 いい根性をしている。どうやら、この男は私に喧嘩を売っているらしい。

『紀美丹君はアレだよね?尾張さんに対してちょっと気が緩みすぎてるよね?』

『貴様なにを知っている?』

 紀美丹君のキャラがおかしい。

『さて、なんでしょうねぇ。』

『聞いたんですか?尾張さんから?何か聞いたりしたんですか?』

 なんでこんな必死なのこの人。

『別に。』

『椎堂様ですか?塩対応の椎堂様キャラですか?』

 椎堂様キャラってなによ。

『別に。』

『わかりました。こうしましょう。僕も椎堂様の印象を言うので、椎堂様も尾張さんからなにを聞いたのか言ってください。』

 何故か、椎堂様呼びが定着しそうになっている。

『別に。』

『僕の椎堂さんの印象は、姉御肌のおかんみたいな人です。』

 こいつ、同学年の女子に何て評価してるのよ。

『とりあえず気持ち悪いから今すぐその評価は改めなさい。』

『気持ち悪いってストレートに言われると、すごい傷つきますね。』

 今まで、紀美丹君の事を尾張さんのそばに時々いる人畜無害そうな小型犬みたいな印象を持っていたけど。
 彼はもしかしたら、とんでもない変態なのかもしれない。

『あと、女子高生にキャバクラの話題ふるとか変態以外の何者でもないと思う。』

『やっぱり聞いてるじゃないですか!?違うんです。あれは話の流れでしかたなかったんです!それと、僕は変態ではありません。むしろ紳士です。』

 女子との会話でキャバクラが出るってどんな話の流れよ。

『それで変態紳士の紀美丹君。あなたの用事はもう終わりって事でいいの?』

『くっつけないでください。まぁ、用事のようなものは特にないですけど、気になる事は一つ。昨日の言葉の意味を教えてくれたりしないですか?』

 はぁ。男はこれだから。

『秘すれば花なり。意味は自分で考えなさい。それと明日、ちゃんと尾張さん送ってあげてね。』 

『まだ、尾張さんが成仏するとは限りませんよ?それとやっぱりおかんみたいですね。』

 私は、スマホの電源を切るとベッドに投げ捨てた。
 さて、勉強しよう。

 

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