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第15話 おかしい

 おかしい。尾張さんにさわれる。
 尾張さんの背中に触れた手を、肩にまわす。

 尾張さんは死んだ。確かに殺されたはずだ。
 そして、今ここにいる彼女は、実体のない幽霊のようなもの。もしくは、僕の妄想の産物のはずだ。
 肩から、彼女の顔に手を移動し、頬をつまむ。

「ひみにふん。はにふふおよ。」

 尾張さんが何か言っている気がする。

「椎堂さん。」

「なに?」

「幽霊って触れるんですか?」

「はぁ?」

「はへはゆふへいよ。いいはへんははひははい。」

 頬に触れていた手を振り払われる。

「変態。」

「誰が変態ですか。」

「いきなりどうしたの?」

 椎堂さんには、尾張さんの声は、やはり聞こえないらしい。

「尾張さん。」

「なによ。」

「いま、メッセージを送れますか?」

 尾張さんは、合点がいったのか、

「そういうことね。」

 と呟くと、スマホを操作し始める。

「椎堂さん。メッセージアプリの尾張さんのブロック解除してもらえますか?」

「・・・・・・あのメッセージ、あなたが送ってきたの?」

 その時の、椎堂さんの表情は、怒りを押し殺しているようだった。

「いえ、違います。尾張さんが送信したものです。」

「いい加減にして!さっきから何度も言ってるじゃない!尾張さんは死んだのよ!」

「えぇ、確かに彼女は死にました。ですが、ここにいるんです。」

 証拠をお見せします。そう言って、彼女にブロック解除を促す。
 椎堂さんは、半信半疑のまま、メッセージアプリを操作する。

 すると、アプリの通知音が鳴る。

 椎堂さんは、メッセージを読むと困惑したような表情で僕の方を伺う。

「どうやったの?」

「どうとは?」

「だから、どうやってメッセージを送ったのよ。あなた、今、スマホ持ってないじゃない。」

「いや、だから、僕じゃないんですって。」

「じゃあ、この部屋のどこかにあなたの協力者がいるのね?あなたたち一体なんのつもりなの?なんでこんなことするのよ!」

 椎堂さんは、どうしても、尾張さんの存在を認められないようで、感情をどこまでも高ぶらせていく。

「協力者は、尾張さんですし、目的は、尾張さんと椎堂さんに仲直りしてもらうことです。」

 そう言った時の椎堂さんの表情は、意識の外から何かで殴られたような衝撃をうけたようなものだった。

「仲直りってどういうこと?」

「椎堂さん、ずっと尾張さんの事を無視していたでしょう?」

「・・・・・・無視なんて、そんなつもり無かったわ。」

 その後悔を滲ませた声と表情は、どこか、悲痛さを感じさせた。

「あなたの心を揺さぶる物語を。」  あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。  私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。  よろしくお願いします。