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第68話 幽霊になる条件

「幽霊になる条件って何かあるのかしらね。」

 二人でのトランプに飽きてきた頃、尾張さんが何気なしに呟いた。
 僕はリフルシャッフルの練習をしながら応じる。

「この世に未練があるとかですかね。尾張さんなら、わかるんじゃないですか?」

「私の場合、未練もあったけど、でも、やっぱりなんでもないわ。」

 少女は、横を向いて赤くなった顔を隠す。
 少年は、不思議そうな顔をしながら、

「でも、アレですよね。つまり、水城ももしかしたら幽霊になって存在してるかもしれないって事ですよね。」

「不気味なこと言わないでくれる?幽霊なんて非科学的な存在がいるわけないじゃない。」

 尾張さんの照れたような顔が一瞬で不快そうな顔に変わった。

「それは、もはや、ギャグにすらなってないですよ。取り敢えず可能性を否定したいからって、自分の存在ごと否定するの止めません?」

「だって、幽霊ってことは、もう法律にも縛られないって事じゃない。なんでもやり放題とか、恐怖以外の何物でもないわよ。」

 尾張さんは、その細い肩を両手で包むようにしながら、ブルッと震える。

「まぁ、そうですけど。でも流石の水城でも死んでまでストーカーはしないんじゃないですかね?」

 なんの確証もないけど、気休め程度にはなるだろうと、そう呟く。

「そもそも、あいつ尾張さんの存在には気づいてなかったみたいですし。」

「それよ、なんであの人私の存在に気づかなかったのかしら。」

 私のこと殺したくせに。と、どこか複雑そうな顔をしながら首を傾げる。
 トランプが床に落ちる。

「さあ?自分が殺したって強く意識していたから、それが障害になっていた。とかどうですか。なんかそれっぽくないですか。」

 適当に考えていた自論を持ち出す。尾張さんは床のトランプを拾いながら、

「適当すぎないかしら。」

 と、相槌を打つ。
 どうやら、あまりお気には召さなかったようだ。

「だって、理由を想像はできても、確定は出来ないですし、適当でいいと思いますよ。」

 僕のそんな投げやりな態度に、尾張さんは、僕が弄っていたトランプを掴むと、綺麗にリフルシャッフルを決めながら、

「それもそうね。」

 とドヤ顔しながら呟いた。
 なんで出来るんですか。
 僕は、返されたトランプでもう一度リフルシャッフルの練習を始める。しかし、何度やってもカードがどこかへ飛んでいく。
 
 少女はそれを微笑ましそうに眺めていた。

「あなたの心を揺さぶる物語を。」  あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。  私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。  よろしくお願いします。