今日は天気がいいので上司を撲殺しようと思います

またしても自分では選ばない本を選択した。前回のエントリーに書いたが、読書メーターが開催しているレビュアー大賞の課題図書を無作為に選んでいるからだ。過激なタイトルが気になった軽い理由で選んでしまった。

課題図書に選ばれていることを考慮すると、読めば何か私に語りかけるものがあるんだと信じ読み切ったけど、本の帯にある「あー!スッキリした」から、ほど遠い苦虫を噛み潰したような嫌な読後感を感じて、レビューを直ぐ書くことができなかった。レビューを書かず、週末に映画をみた。家族と一緒に映画館で「Hello World」、家族と自宅のホームシアターで「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」、そして1人、iPadで「恋妻家宮本」を続けてみて、どの映画もラストの爽やかさ、悲しさ、色々な意味で心を揺さぶられた。すると、私は鬱屈して陰鬱な気分から開放されなかったけど、今生きる若い人(私は50歳代なんで)には共感でき必要とされている本じゃないかと思え、少し考えてみることにした。

3つのショートストーリー

最初のストーリーは表題にもなっている「今日は天気がいいので上司を撲殺しようと思います」から始まる。理不尽なパワハラ野郎の上司。私は自営業なんで、どちらかと言うと上司の立場でこの物語を俯瞰したけど、いまどきの一流企業は、こういう男を野放しにしないだろう。部下の手柄を横取りして出世できても次に続かない。出身大学や有能な部下への妬みが理由だけで、犯罪になりそうな態度をとり続ける意味の分からない上司の存在に現実味を持てない。読み進めても理由は分からない。なのに、主人公の加古川玲美は、理不尽な仕打ちを真っ正面から受け入れ、孤独に耐える。しかし、唯々耐えるだけで戦おうとしない姿勢にもどかしさを感じて最初は腹がたってしまった。

夕鷺かのう

ここで著者に関するデータを調べてみた。デビュー作が、2009年に第11回エンターブレインえんため大賞ガールズノベルズ部門の奨励賞を受賞していた。年齢は不詳だが、かなり若い女子でしょう。ジャンルは女性向けライトノベルらしいが、今時の若い女性が共感する作品なんで、50歳過ぎのおじさんには、理解しがたい話の展開に思えたし、彼女らがスカッとした清涼感を感じる作品ということなら、日本女性の行く末に憂いを感じずにはいられなかった。

実は絡み合う3つのストーリー

加古川玲美は、不条理な上司の攻撃に、耐え続ける。耐える事が美徳のように耐え続け、我慢できなくなり、神頼みに走る。戦うために立ちあがることもなく、周りに助けも求めない。自己中心的に閉じこもり、孤独に耐え続けることが、この世に生まれてきた存在理由であるかのように耐える。しかし、精神は崩壊していく。現実か幻か分からない世界に落ちて、夢の中で上司を撲殺する...

2話目の「天井の梁」でも、不条理に責め立てる上司は、1話目と同じだったが、徹底的に主人公の萩原麻里子を責め立てる理由があった。そして彼女には、味方がいた!母親が心の支えになり、彼女を強くして耐え続けることができた。そして、悪事は続かないという状況に助けられた。

3話目の「引き継がれ書」でも、理不尽な上司に責められる。しかし、今度は仲間がいる!そして、主人公の相馬奈々がとうとう行動をおこす。「辞職」という消極的ではあるが、初めて自分から行動をとる解決策。

今時の女性は頑張っている

世代別のスカッとすっきりする感覚は違うだろう。積極的な行動を起こして、上司をギャフンと言わせる展開でないと私はスカッとできないし、彼女らのように耐えることもできそうにない。逆にいえば、いまどきの彼女らは我慢強すぎるんだろう。この本で共感を持てる人は、本当に強い人なんだ。しかし、1話目のように理不尽な状況を無条件に耐え忍ぶと、「上司を呪い殺す」のメタファーになっている、「自殺」に追い込まれてしまう。それを避けるために、2話目、3話目へと繋がっていく。パワハラする理由はあるんだと。そして、心のよりどころがあれば強くなれる。仲間をみつけ、そして行動を起こす。まだまだブラックな環境で働いている若い女性は多いのでしょう。孤独に耐えないで、この物語のように行動を起こそう!

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この物語に共感を持てる人は、立場は変われど最悪な職場で頑張っている女性のはずだ。でも、理由も分からず孤独に耐え忍ぶと、1話目にある「上司を呪い殺す」に秘められている「自殺」にいきつく危険性をはらんでしまう。でも著者は、2話目で、パワハラには理由があり、心のよりどころを持てば強くなれると言う。そして、3話目で、仲間を作り、行動を起こせば、未来は開けて希望が持てるんだと訴えてくれる。ホラー小説のような展開ながら、パワハラで苦しんでいる女性への応援本!行動をおこそう!


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