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相続対策としても有効「家族信託とは?」

こんにちは、スマート法律相談の弁護士のカツベです。

今年の7月から、自筆証書遺言の保管制度が開始し、以前よりも安価かつ効果的に遺言を残すことが可能になりました。

ただ、この制度の実際の使いどころとなると、意外とはまるポイントが見つからないという印象もあります。

そもそも、遺言書の作成は自筆証書遺言のほか、公正証書遺言によっても作成することができます。

公正証書を作成する公証人は、元裁判官や元検察官など法的素養のある方で、公正証書を作成する際にもある程度事情を聴きとって最適な文案を作成してくれます。

もちろん、自作の文書を公正証書にすることも可能ですが、公証人や弁護士などの専門家に相談しながら遺言書を作成するのが多数派なので、作成した遺言書だけを保管してくれる点にまだまだ価値を見出しがたいのかも知れません。

遺言書の短所

そもそも、自筆でも公正証書でも、遺言書には本来的な短所があります。

それは、財産の承継を点でしか表せないということです。

相続は死亡によって開始しますが(民法第882条)、遺言は、相続開始時にどのように遺産分割をするかを表現するのが原則的なありかたです。

しかし、財産を管理したり処分したりするニーズは相続開始前からありますし、むしろ生前の財産管理と連続性を持たせた形で財産の管理処分を決めたいと考える方が自然ですし、フレキシブルな処理も可能となります。

そのための方法として現在注目されているのが「家族信託」という方法です。

家族信託とは?

家族信託という言葉は法律用語ではありませんが、家族間で行う信託というニュアンスの言葉で、法的には民事信託の一種です。

以前は信託をする場合には信託業免許が必要(商事信託)でしたが、平成18年12月の信託業法改正により、営利目的でなければ、信託業免許を持たない法人や個人間においても、受託者になることが可能となりました。

つまり、一定の要件を満たせば安価かつ手軽に信託制度を利用することができるようになり、これによって家族間でも信託という便利な制度を使うことができるようになったため、徐々に利用が拡大しているということです。

家族信託は、生前の財産管理のために用いることができるほか、相続時においても遺言にはないフレキシブルな処理ができるため、相続対策を考えている方は知っておいて損はありません。

信託とは?

家族信託を理解するためには、まず「信託」という仕組みの概要を知っておく必要があります。

このコンテンツについては「5分で分かる」解説動画も作成されています。


信託とは、文字通り、「信じて託す」ということです。

しん‐たく【信託】
[名](スル)
1 信用して任せること。「国民の信託による政治」
2 他人に財産権の移転などを行い、その者に一定の目的に従って財産の管理・処分をさせること。「遺産の管理運用を銀行に信託する」「信託証書」

平たく言ってしまうと、信託とは、自分の財産を誰かに託すことなのですが、法律上の信託では、この「託す」というのは財産権(所有権)の移転などを指します。

つまり、自分の利益のために他人に財産権を譲渡するのが信託ということになります。

例えば、不動産を信託財産として誰かに託し、得られた収益を受け取るという方法が考えられます。

不動産経営をされている方の中には管理会社を使っている方も多いと思いますが、管理会社を使う場合、不動産の所有権はあくまでも自分で、管理会社は仕事として管理業務のみを行っているということになります。

信託の場合は、他人に所有権ごと移してしまい、自分のところにはその財産から利益を受け取る権利(受益権)だけを残すということになります。

不動産経営をされる目的には様々あると思いますが、仮にその目的が「賃料収入を得る」点にあるのであれば、自分のところには利益を受け取る権利(受益権)だけが残れば十分だということになります。

この仕組みは家族信託以外にも様々な場面で応用されています。

例えば、「金融商品の組成」です。

例えば、ある財産を信託財産化し、その受益権を割合分割することにより、その受益権が金融商品として成立します。

リーマンショックで問題になったCDO(債務担保証券)も、住宅ローン債権などの資産を信託財産化し、その受益権を流通したもので、ここでも財産の信託化という手法が用いられています。

(CDOは他にも住宅ローン債権などを特定目的会社(SPC)に移転し、その会社の社債を発行するという方法でも発行されます。)

法的な位置づけ

信託法第2条によると、信託とは、当事者間の契約などにより、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいいます。

信託法第3条によると、信託の方法には契約や遺言などがあるとされています。

信託法
(定義)
第二条 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
2 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。
一 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約
二 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言
三 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録(同号に規定する電磁的記録をいう。)によってする意思表示

(信託の方法)
第三条 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
一 特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法
二 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
三 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法

信託法第3条第3号に書かれているのが、金融商品の組成などに使われる自己信託で、金銭債権の流動化・証券化などに用いられます。

家族信託は、信託法第3条第1号に書かれている「信託契約」による方法か、同第2号に書かれている「遺言をする方法」によってなされます。

家族信託が相続や資産承継に使える理由

さて、ここまで信託について基本的なところから解説してきましたが、それではなぜ、この「信託」は相続や資産承継のためのツールとして有用なのでしょうか?

まず第1に、信託財産化して、管理処分権と受益権を分離しておくことにより、認知症対策になります。

認知症になると単独で有効な法律行為ができなくなりますが、これは言い換えると「単独で有効に管理処分権を行使できなくなる」ことを意味します。

しかし認知症であっても、受益権の行使、つまり、単に利益を得る行為は有効になしえます。

そこで、認知症になる前に管理処分権は自分以外の者に任せ、受益権のみを自分(若しくは妻)に残しておくことにより、資産凍結による不都合を回避することが可能です。

また、第2に、所有権ではなく受益権を相続の対象とすることにより、財産管理の安定化を図ることができます。

自分が妻より先に亡くなった場合、まずは妻に全財産を相続させたいものの、妻が認知症になってしまうと資産が凍結されてしまいます。

かといって妻を差し置いて息子に全財産を相続させるのも心配。

このような場合、予め息子を信託受託者にして自身が亡くなったときは妻に受益権を相続させることにより財産管理の安定化を図ることが可能です。

今回は基本的なところの説明をしましたが、次回から具体的な活用事例などについて紹介をしていきたいと思います。

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