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君にはあの桜が見えるかい?

病名:統合失調
年齢:80代
趣味:空を見ること、カラオケ
状態:支離滅裂、陰性症状あり、
しかし生活リズム良好

精神科に就職して、
1番印象に残っている患者様とのある出来事。

彼はいつも"ニコニコ"している😁

精神疾患の「空笑」とも「感情失禁」とも
違う。非常に穏やかな「笑顔」

水曜日の午後は「作業療法」の
レクレーションプログラム「カラオケ」がある

そこでは、「宇宙戦艦ヤマト」もしくは「軍歌」
を好んで歌う。

病棟では、ずっと小窓から空を眺め
「ニコニコ」している。

ボクが近寄ると
「ほら、雲が見えるよ」と教えてくれる。

患者さんたちからも慕われていて、
「〇〇ちゃん」と呼ばれ、可愛がられる存在。

院外にいるどの人より「落ち着いている🍵」

ただ、彼の空間は「院内」にあり、
おそらく「妄想」と言う空間内にいる。

"長谷川式簡易知能評価"などを行えば
おそらく0点だろう。

その様な状態だが
ある時。こんなことがあった。

作業療法中に、いつもよりも
「外」を見ている彼。

ボクがそろりそろりと近づくと
こちらを見て
「ほら」という。

彼はいつもなら「空」を指さすが
この時ばかりは「マンション」を指さした。

一瞬何のことかがわからず
「外に何かありますか?」と聞けば

「君にはあの桜の木が見えるかい?」
とボソッと言っていた。

彼が指さすところには
「桜ではなく、"マンション"」

わかりはしないが、
「桜の木があったら綺麗でしょうね」
とボクは答えた。

すると初めて「ムッ」とした表情をみせ
「あるんだよ」と言う。

そのあと患者さんと看護師さんが
教えてくれたが、
過去に桜並木があったそうだ。
そこは何故か、切り倒されて
マンションになったらしい。

ただ、驚くのは
「3月暮れの話」ということ。
彼は妄想の中にいるものの
四季を感じとり、妄想世界にも反映していたのか?と。
教科書や検査では答えられなくても
肌で感じたり、何かしらアンテナがあるような
そんな不思議な体験。

数字では0点かもしれないが
よく、観察していると
教科書には載ってない、彼らの生活、
生きてきた歴史が必ずある。

妄想だからと、耳も傾けず
わけわからんね、っていうよりも

たまに、妄想に触れ
彼らが感じている
素直な表情を汲み取ることも

大切なことなんじゃないかな?

もう、病院からは離れてしまったけど
今ならゆっくり話を聞いて
彼と花見の話なんかしてみたいなあ🌸

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