撮影機材と撮影料金のはなし

撮影料金と機材代の投稿を見たので参考までに。

撮影料金と機材価格のバランスの話の前に、まず、なぜ高価な機材が必要か?をお話しします。

撮影機材の価格は、「写真の良し悪し」ではなく、「どんな環境でも撮れるか?」で決まることが多いです。

撮影をする場合には、環境を選べる(作れる)場合と選べない場合があります。
例えば、ドキュメンタリーの撮影だと、「雨や埃」「湿気」「暗闇」「逆光」「被写体との距離」など悪条件でも撮影を止めることができません。もちろん、ドキュメンタリーなので撮り直しはできません。

そんな「悪条件」でも撮影をしなければならないか?が機材選びのポイントとなります。一例をあげると、
・雨や埃に強い「防塵防滴」
・暗闇でも撮れる「明るいレンズ」「手ぶれ補正機能」「高品質なAF機能」
・被写体との距離を補う「望遠レンズ」
・環境の悪い状況でも壊れにくい「耐久性」 などがわかりやすい例でしょうか。
仕事においては「撮れない」ことがあってはいけません。
どの環境までの仕事を引き受けるか?で機材を選ぶことになり、より悪条件でも仕事を受けたい場合には、必然的に準備する機材価格が上がることになります。

では、撮影料金はどうでしょうか?

納品するのは、撮影された写真です。
撮影に使ったカメラやレンズを一緒に納品することはありませんし、カメラやレンズの機種を指定されることは、まずありません。
その代わり、「撮影内容と環境」を事前に知らされて、その内容でも「求める内容の写真が撮れる」ことが条件になります。

カメラマンは、その条件に見合った機材を準備します。
環境が不鮮明な場合は、ロケハンを行なって現場の光や機材の持ち込みが可能か?などをチェックします。 撮影環境が悪くても「撮れない」ことがないように準備します。
天候や湿度、風などの影響を受ける可能性がある場合は、機材用のカッパや埃除け、風で倒れない機材などを準備します。フィルターや予備のカメラ、ストロボ、アシスタント代も含まれます。

商業写真の場合は、目的を果たすことが重要です。
「その場でできること」ではなく、目的を果たすために準備した機材で「想定通り」の写真を撮ることが重要になります。
その「絶対条件」を「安心して遂行できること」が撮影料金にも反映されます。
ひとつの撮影案件には多くの人が携わることが多いです。準備不足で失敗することは避けなければなりません。
そのためにも撮影前の準備がとても大切です。不備のないようにあらゆる状況を想定(撮影プランを立てて)して、必要な機材を準備します。

もちろん、納品するのは写真です。写真の内容がクライアントの求める内容であることは言うまでもありません。
ただし、その写真を撮影するために必要な機材や手間、機材を使わなかった場合との違いなどを説明する責任はカメラマン側にあると思います。

それに対して「撮影するために全く問題のない環境」で撮れる場合は、上記のような機材の差は、あまり出ません。
機材によって差が出るとすれば、それは「カメラマンがいかに楽をできるか」でしょう。 
ただし、楽に撮れることで「より良い写真が撮れる」人もいますし、扱いが楽ではない機材を使うことで「良い写真が撮れる」人もいます。楽が良いことであるかはカメラマン次第です。
どちらにしても、カメラマン側の都合であることは間違いありません。

私は可能な限りRAWで撮ります。現像の手間はかかりますが、撮影時には対応しきれなかった光の微調整をしたい為です。
これは「こだわり」ではなく、私の「安心」のためです。つまり、私の気持ちが楽だからですね。

長くなりましたが、以上が「カメラマンが高価な機材を手にする理由」のひとつと言えます。

近年はスマホでも高画質な写真が撮れるようになりました。良い環境であれば、一眼レフにも負けない写真を撮ることができます。
「カメラによって撮れる写真の差はない」というのも「ある環境」においては間違いない事実だと思います。

仮に、フェラーリのタクシーがあったとします。
通常の運賃以外に「フェラーリ代」を請求しても、辿り着くことが目的の人には「無駄な料金」でしかありません。むしろ、乗り降りがしにくい分、安くして欲しいくらいだ!と思うでしょう。
それに対して「一度乗ってみたかった!」と思う人にとっては最高の機会です。ある程度の追加費用は全く問題ないかもしれません。

タクシー料金でフェラーリが買えるか?も問題です。
原価焼却ができなければ、そもそもタクシーとして使える車両ではないと言えます。

また、これと「快適に目的地についたか?」は別の問題です。
運転のうまさや、運転時の気遣いは全く別のものです。「快適に移動したい」と「移動さえできれば良い」も違うものですね。

残念ながら撮影代には定価がありません。いろんな価格設定が存在します。
撮影時間も環境も様々なので、決めることが難しいのも事実です。
これに関しては、お互いの目的や方法をしっかり確認し合うしかありません。

ただし、カメラマン側の意識は違います。
クライアントから機材指定されることは、ほぼありません。
クライアントは、撮影された写真をみて価格を決めています。 そして、カメラマンはクライアントに安心感を与えるために必要な機材を揃えます。
そこを「どうでもいい」と言い出したら、それは「撮れる写真がどんなものでもどうでもいい」と言っているのと同じです。

「スマホでも撮れるかも?」ではなく「スマホで目的のものが安心して撮れる」のであれば率先して使って良いでしょう。
しかし、少しでも不安があるならスマホでの撮影をするべきではないと思います。
「安心して撮れる」の中には、機材の重量やサイズも含まれます。重い方が安定することもあれば、軽い方が動きやすい場合もあります。

カメラにはできることとできないことがあります。
目的を果たせないカメラで撮影しても、クライアントが求める「良い写真」にはなりません。
逆に、目的が果たせれば、高い機材を揃える必要もありません。
この部分が一致しないと、お互いが価格に納得できることはないかもしれません。
どちらも間違いではないのですから。

それに対して「芸術性」や「個性」を出すために一律で必要な機材はありません。
「自分にとって」必要な機材を揃えるだけですし、機材によって「写真の価値」が変わることもないでしょう。自分が「何を求めるか」を重視して良いと思います。

ただ、個人的にはプロとしての「品質」は重要だと思っています。
私たちの撮る写真は、少なからず未来の写真業界への品質に繋がっています。
プロの撮る写真が必要ない理由のひとつに、「プロとアマチュア」の境界線がなくなってきたことが挙げられます。
アマチュアがプロ並みになってくるのは良いことですが、プロがアマチュア並みになってしまうと、業界の衰退が見えてしまいます。
そうならないためにも、プロの私たちが自分の基準を下げないという気持ちは持ち続けたいものです。


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