見出し画像

おみゅりこ。列伝SAMURAI

この燻んだ冬の葉に季節の数字など当てはめられない。忘れられて瑞々しさを失った固い絵の具。
ガサガサ慌ただしい猪が……あの山の向こうに、確かに私が居た――

――私はかつて『剣豪』を目指していた。木刀を持って野山を駆けずり回り、振り回し身体を鍛えていた。高校生の頃だった(高校生⁉️)

模造刀は美しい。しっかりと振り下ろすと『ヒュン』と凛々しく風を切る。そこに私は芸術性を感じた。ならもっと……もっと美しい音が聞きたい。

人の目か心の憚りか、模造刀の代わりに木刀を携え、冬の山を目指した。虫が少ないってのも主な理由だ。
山はとにかく静かだ。吹き抜ける風と、揺れる葉、ヒヨドリとカラスの声。
竹で作った弓矢の携行も忘れてはならない。私は昔っから仮想敵と戦っていたんだなぁ……(高校生)

武士道とは、騎士道とは。私は日々自問しながら、畑の人等を気にしながら木刀を振る。
一対一、一対多数。様々なシチュエーションを妄想しながら立ち回りを考える。咄嗟の投石技術、怪我をしない傾斜の下り方、二刀流、片手片足を損傷した場合などを想定し、頭を捻った。

ある日兄から『お前の部屋から変な音がする』と言われたがスルーした。彼に芸術のなんたるが分かるわけがないからだ。

私は剣道部や弓道部などとは一線を画した存在だと勝手に自負していた。自然の山々の厳しさを知らぬ軟弱者。せいぜい道楽に耽るがよい……と(お前もな)

しかしいずれ、『将来』という強大な敵に負け、剣を置いた。

だが私の心は今も、抜刀の構えをとり、世界に切っ先を向ける瞬間を待っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?