第58回:改革の流れを読み、今後に備える‐薬剤師によるOTC医薬品販売規制緩和の事例-
1)資格による参入障壁がもろくなってきた
「資格を持っていれば仕事に困ることはない」と親や先生に言われてきた人も多いのではないでしょうか。
そんな風に言われてきた理由は、その資格を持っている人にだけ許される業務が存在することにあります。安全・安心の観点から特定の作業や仕事を行う職場には、資格者をおかなければいけない決まりがあることも、資格者の希少性を高める要因になってきました。
医療者の資格取得者はその恩恵を最も受けてきたといってもいいでしょう。
資格者にのみ許された独占業務で有名なものは診療です。これは医師免許を持っている人にだけ許される行為で、ブラックジャックのように無免許で医療行為を行うことは医師法違反の犯罪となります。
医師や薬剤師の配置がなければ、営業や販売ができない業態も多くあります。ドラッグストアなど医薬品を販売する店舗は、薬剤師などの有資格者が実地で一般用医薬品の管理をすることになっています。
例えば、第一類医薬品については、そのドラッグストアで働いている薬剤師が購入者の対応をすることが決められています。第一類医薬品というのは、医師の処方箋なしに購入することができる一般用医薬品のうち、もっともリスクの高い医薬品のことです。ガスター10やロキソニンSなどが該当します。一般用医薬品には、他に第二類医薬品、第三類医薬品があります。
「現在薬剤師が不在のためこの医薬品は販売できません」という札が医薬品の棚にかけられているのを見たことがある人もいるかもしれません。これは、その店舗で働く薬剤師がそのドラッグストアにいないために、医薬品があったとしても、利用者はその医薬品を買うことができないという状況を意味しています。
これらの規定は、医薬品の副作用や相互作用のリスクの即時の情報提供の観点のほか、ドラッグストアなどにおける医薬品の適正管理の責任を有資格者に求める目的がありましたが、2022年12月のデジタル臨調(デジタル臨時行政調査会)の会議資料で2024年6月までにこの規定の見直しについて「検討し、結論を得る」ことが明らかにされました。
デジタル臨調全体のトーンは、デジタルの活用を前提としていないアナログな規制を一括で変えていく方向となっています。デジタル改革は菅政権からの官邸の関心事項でもありますし、何も変わらないことはないでしょうが、制度の設計によっては、様々なパターンが考えられそうです。
規制改革側の人は、政府が方針を示したことで安心しているかもしれませんし、反対の立場の人は気落ちしているかもしれませんが、大切なのはこれからどのような制度設計がされるかです。この政策に少しでも関係する人は、ありうる政策の方向性と論点を先取りして、自身があるべきと考える政策が実現されるようなロジックを作っていかなければいけません。
今回は過去の政府会議における議論を踏まえながら、ありうる政策の方向性と、その論点を明らかにしていきます。
(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)
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2)規制改革側が想定している制度の仕組みはこれだ
実はこのテーマは、12月のデジタル臨調で取り上げられる前から、議論の俎上に上がっていました。規制改革会議のWG(ワーキンググループ)です。
2022年3月のWGでコンビニチェーンのローソンが提案した内容は、事前に販売許可がある店舗(A社)で薬剤師などと相談の上購入し、受け渡しは薬剤師などが介在しないコンビニなどの別の店舗(B社)がA社の委託を受けて行うという制度改正です。A社が医薬品の管理に責任を負うとする提案です。
実はローソンは2020年にも同様の提案をしていましたが、その時の内容と比べると、医薬品の管理の責任を薬剤師が在籍するA社に負わせ、医薬品の品質管理をデジタルで行うことを明確化するなど、2022年3月はより踏み込んだ提案内容となっています。
この提案内容については2022年6月に閣議決定された規制改革実施計画の中で、2022年度中に検討を開始することが明記されました。
デジタル臨調の資料の内容は、この規制改革実施計画の記載と大きく変わるものではなく、むしろ、2024年6月までに結論を得る、というデッドラインが決められたことに意義があるといえそうです。
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