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転職アスリート ⑥ 〜 ラフティングガイド 下巻 〜

ラフティングガイドの仕事は朝一番、大きなゴムボートをバスの屋根の上に積み込む事から始まる。そして集まったお客さんと共にそのバスに乗り、上流のスタート地点へ向かう。

バスの中ではパドルの使い方とボートから落ちた時の対処法を軽く説明して、

「いざ激流の吉野川へ」

最初は、流れの穏やかな所で、実際にパドルを使い旋回したり後方に進む練習をする。

慣れてきたらボートを、わざとひっくり返し、落ちた時の救助訓練をして激流スポットに備えた。

この吉野川には『瀬』と呼ばれる、流れの急なところがたくさんあるが、特に激しい場所が3つあり、名前をつけている。

「三段の瀬」

その中でも一番攻略が難しいと言われる激流スポットは、このラフティングコースの見せ場であった。

「皆さーん、この先がクライマックスです。この先に3つ、大きな瀬が続きます。1つ目でボートから落ちると危ないですよ〜」

とお客さんを脅してから、ボートを瀬に角度をつけて入っていき

「ザブンッ」

と滝から、滑り落ちるように1つ目をくだる。さらにボートの進む角度を変えて2つ目。

「ザッブーン」

最後は急転直下の1番大きな瀬で、ここは加速して乗り越えないとひっくり返ってしまう。

「皆さ〜ん、パドルを持って漕ぎまーす!」

速度と角度を調整し、瀬に入る直前で漕ぐのをやめさせ

「体を中に入れて、屈んで〜」

みんなはキャーー、と絶叫しながら

「バッシャーン」

2メートルほどの滝を一気にくだり落ちると、みんなでパドルを空に突き上げ、ハイタッチをした。

夏を謳歌していた。秋の気配に背を向けて、まだまだ夏は終わらないと思い込んでいた。

だが紅葉がはじまり、川の水が死ぬほど冷たくなって、お客さんはいなくなってしまった。

アリとキリギリスで例えれば、完全に後者である。社長が突然、

「また来年4月からで良かったら、一緒にやろう」

と、みんなに解散を告げた。
社長が解散を告げ、ほとんどの仲間は実家に帰った。そんな中、愛媛県の宇和島市でミカンを収穫する季節バイトに行くという強者がいた。

彼はケンと呼ばれ、みんなから慕われている先輩で、今までいろんな所で季節バイトをやってきたという。

そして彼は電話1本で翌週からの仕事を決めてしまった。

「来週からだけど、今年もやっとる?? な、何、ええっ?人が足りてない、、」

ケンさんは僕の方を見た。僕は少し悩みながらもうなずいてしまった。すると彼は農家の人に

「わかった、もう1人連れて行くわ、じゃ来週ね」

呆気にとられてる僕に、ケンさんが

「三度の飯と風呂と布団がついて、現金で30万もらえる」

と魅力的な内容を伝えてきた。ラフティングの給料と比べれば破格な値段だ。空家を管理している大家さんに

「来年の4月に、また戻ってくるけん」

と伝え、部屋を片付けた。

そして愛媛へ行く準備をしていたら、1週間はあっという間に過ぎた。


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