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中2病症候群 ⅴ[ケンボーの受験]

昭和から平成に入って間もない頃、田舎町のとある中学校で起きた物語である。

人生には、高校入試という避けては通れない岐路がある。今回はケンボーという同級生の話を書きたい。

高校入試が近づいている頃、ケンボーは、進学先が危ういにも関わらず、受験の補講をサボって駅伝の練習に毎回参加していた。

僕はケンボーのオカンから受験勉強を少しでいいから見て欲しいと頼みこまれた。

「ケンボー、どこ受けんの?」

「M高やけど、先生が厳しいっていうからセーコウ(私学)も受けとこうと思ってる」

徳島のような田舎であれば高校受験が、初めての入学試験であり、時に親たちは本人以上にのたうちまわる。

たまたま自分はスポーツ推薦の内定をもらい、皆が受験勉強している中、駅伝の練習に明け暮れていた。

そんな中、僕がケンボーの勉強を見る事になった。高校受験は国語、社会、数学、理科、英語の5教科(各100点満点)で、実力テストがその日、実施されていた。

「ケンボー、実力ナンボやったん?見せて!」

と彼に聞いた。するとケンボーは、

「んー、今回は95点やった」

と答えた。僕は社会科が得意で90点を取っていたが、まさかケンボーに何かで負けたのではと内心思いながら、彼の成績表を見た。

ケンボーは5教科の合計が、なんと95点であった。M高校は最低120点だと聞いていた。

さらに県内には私学の高校は2校しか無く、めちゃめちゃ頭がいい学校とそうでない学校に分かれている。

もちろんケンボーは後者の方であるが、果たしてこの成績で大丈夫かなと心配になった。

そんな彼の解答用紙を見た。予想はしていたが、なかなかの間違い具合に人間らしさを感じた。その中で国語が5点とあった、僕は

「作文を書くだけで30点あるねんで」

とケンボーに作文を書くことを勧めた。基本的に作文は100文字のマス目に何かを書いていれば点数が貰える。日記の様な作文を彼は毎日書くようになる。

そして迎えた高校入試直前、最後の実力テストでケンボーは他の問題をすっ飛ばし、いきなり最後の問題である作文に取り掛かった。

題名 「海で泳ぐ」
           S田 健治
 夏休みに海で泳いだ。僕は海が大好きだ、海は最高に気持ちいい、などなど、、、。

ケンボーは一目散に100文字の原稿用紙を書き終えた。かなり興奮している、過去最高得点を叩き出せそうだ。

内容はどうであれ、書いていれば最低20点くれると聞いていた。

そして期待していたテストが返ってきた。な、なんと0点と書いてある。ケンボーは、

「な、なんでな〜ん?」

と泣きついてきた。今回の作文は題名と名前は書かずに「人との繋がり」について書けという条件付きの問題であった。すまん、ケンボー。



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