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スタートアップをめぐるお金の循環を、もう一度考え直す時期に来ているのではないか


シリコンバレーバンク(SVB)の破綻は、金融不安を引き起こす震源となり、そこからヨーロッパに飛び火するなど、収まる様子をみせていない。こうした金融業界に対するインパクトもその通りだが、スタートアップのエコシステムにとってSVBが大きな存在であったということが、今後のスタートアップとエコシステムにどのような影響を与えるのかが気になるところだ。特に、今後お金がどのようにスタートアップを巡って循環するのかというところに大きな関心がある。

この記事にあるように、SVBは、スタートアップにとってVCからのエクイティによる資金調達ではなく融資による資金調達を叶えてくれる銀行であった。その背景として、VCとの緊密な連携によって、融資先スタートアップの将来の資金調達の可能性についての裏取りがあり、それがいわば担保のような役割を果たしSVBが大きな焦げ付きを出さずにスタートアップに融資することができた、ということだ。

この記事の下に、日経BPの山崎編集長が「別の視点」として書いているが、スタートアップからすると、VCからの資金調達を必ずしも歓迎しないという傾向があることは私自身も感じている。特に日本の場合、あまり多額の資金を出してもらえない割には、大きく経営に口を出されるというのが、一言で言ってしまえば、その理由だといえるだろう。さほど大きくない金額であれば、銀行などの金融機関が融資をしてくれるのなら、その方がスタートアップとしては資金調達に伴う制約が少なくなる。株式を渡すということは、それだけ株主としての権利を主張されることになるからである。資金を返済する必要がないことはVCからの資金調達のメリットだが、融資なら、決められた通りに返済しておけばそれ以外は一切口を出されないので、自由に資金を使うことができる。だが、日本の銀行からスタートアップが融資を受けることが現実的なのかどうか。少なくてもSVBのような融資体制がとれる銀行はないのではないか。

もちろん、融資された資金を口を出されずに使って経営出来ることがスタートアップにとって必ずしもプラスにならない場合もあるだろう。VCによって経営に関する様々な助言が行われ、より事業の成長に結びつくのであれば、VCからの出資を受け入れる価値がある。

アメリカでこうしたエコシステムが成立している背景には、一つにはVCに集まるお金が大きいために出資の金額規模が大きいということがあり、もう一つは、起業経験者がVCになる、あるいはスタートアップとして成功した人がキャピタリストになることがある。スタートアップの経験があれば、出資先スタートアップの置かれた状況が十分に分かり、それを踏まえた的確なアドバイスがやりやすいだろう。一方で、スタートアップではなく、たとえば金融業界で長らく勤めた後にVCになるといったケースだと、金融のスペシャリストとしての知見や経験はあっても、起業家が置かれた状況について肌感として理解ができず、結果的に適切なアドバイスが出来ないというケースも考えられる。もちろん、人によってその資質は様々であり、一概にそうであるとは言えないが、やはりスタートアップ経験者や企業経験者がVCの組織のなかにいるほうが望ましいのではないかと思う。

先ほどの記事によれば、日本のVCは新卒採用組からもキャピタリストを育成しようとしているようだ。もちろん、こうしたやり方が悪いわけではない。短期的にはこうした手法をとらなければ、なかなかベンチャーキャピタリストは増えない。しかし、先に述べたように、起業家としての経験やスタートアップで働いた経験がないままに、さらには社会人経験もない新入社員をキャピタリストとして育成していくということなら、どの程度こうした面がカバーできるのかが今後問われることになるだろう。

もちろん、起業家やスタートアップで働いた経験のある人がキャピタリストになるためには、まずスタートアップで働く人や起業家になる人が多くならなければ、そこからキャピタリストになる人たちも生まれようがない。日本はまだまだその点で、スタートアップが社会に十分に認められているとは考えられず、例えば就職の時に親が反対する、といったことはあるのだろうと推測される。この点が解消されないと、スタートアップや起業家出身のキャピタリストが十分に生まれてこない。

また、もう一つの資金提供主体として、行政機関がある。日本政府がスタートアップの振興を掲げ、多額の予算を投じているが、実際にお金が必要な形とタイミングでスタートアップ回っているのか、というところも検証してみたいところだ。様々なスタートアップに関するイベント等にはお金を使っているが、実際にそれがスタートアップに直接に振り向けられることは限られているように思われる。また、そうした場合であっても、行政独特の非常に複雑な手続きが必要であり、また多くの場合、行政からの資金は一つの事業が終わってから、最後に振り込まれることになる。これでは融資を受けにくいスタートアップにとって、行政の資金を活用することが非常に難しいということも表している。行政からのお金が振り込まれるまでのつなぎ資金がなければ活用できないからだ。

これは何もスタートアップに限らず、既存の企業においても同じだということが、この日本の大手手袋メーカーの社長のインタビューからも窺い知れる。

銀行など金融業界の動きにしても、あるいは行政の動きにしても、まだまだスタートアップという存在に対して最適化できている状況にはなりきれていないのではないだろうか。一足飛びには行かないとは承知しているが、金融機関や行政機関には、今後スタートアップを育んでいけるような組織体制や体質に一層の変革をし、今よりも柔軟で多様なスタートアップを巡る資金の流れが生まれるようにしていく必要がある。




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