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お金の回り方が変わった1年

2022年はお金の回り方がリーマンショック以降これまでの十数年と大きく変わった1年と位置づけられるのではないだろうか。

直接には2月のロシアによるウクライナ侵攻に端を発し、エネルギー供給の停止・減少問題やグローバルサプライチェーンの寸断など、モノの不足が価格高騰につながり、これまで当たり前にと思われていたことが当たり前ではなくなったことで、大きくお金の回り方が変わった。

エネルギー価格の上昇は、あらゆるものの価格に波及していき、アメリカを筆頭に非常に大きなインフレを経験することになった。ちょうどコロナの影響で各国政府が市中に多くのお金を流通させていたことがインフレに拍車をかけたということで、アメリカの FRB が大きく利上げに舵を切ったことによって世界的に金利が上がるだけでなく、ドル高に振れたことで各国通貨は価値が低下し、これまで金利やインフレを気にせずに回ってきた経済が逆回転のモメンタムとなったし、通貨安によって輸入を伴うビジネスは不利な環境に置かれている。

幸か不幸か日本は、日銀がつい最近まで金融緩和政策を堅持する方針を維持して来たために大きなインフレや高金利の問題が起きずに済んできたが、年末になって日銀も少しこの方針を転換したと見られていることや、来年にはこれまでの金融緩和政策を主導してきた黒田・日銀総裁の退任も予定されているため、日本も他国の後追いとなって金利の上昇やインフレの拡大といったことにつながる可能性もあるだろう。

こうした金融経済環境なかで、スタートアップの資金調達には厳しい時代がしばらくの間続く可能性はあるのだと思う。これまでの、潤沢な資金が比較的容易に調達できたといった状態はしばらくの間鳴りをひそめるものと考えられる。

投資判断の前提となるスタートアップのビジネス進捗の度合い、いわゆるトラクションについても、エンドユーザーの経済状況が悪化するため財布の紐がかたくなり、トラクションの発生に力強さがまれにくいことがさらなる資金調達の足枷となる、そういうサイクルに入っていると考えられる。

言ってみれば、これまでの常識と180度異なる新たな常識にしたがって行動していく必要がある、ということかもしれない。赤字でも資金調達をして成長させれば良いという考え方ではなく,、この記事にもあるように早急に黒字化し、必ずしもエクイティではなくデッドのファイナンスをしながら事業を成長させていく方策も検討するべきだろう。

また純粋な VC とは異なり、事業会社が持つ CVC は純粋な VC よりも投資余力が急激に細ることがないのなら、こうした CVC の存在意義も改めて見直す時期にあるのかもしれない。また、行政機関をはじめとした公的機関がスタートアップ支援の動きを強めており、こうした動きのなかで組成されるファンドもある。

そして何より最終的な顧客である消費者のお金に関する状況が大きく変わっているということについても目を向けておきたい。

岸田政権は NISA 制度の大幅な拡充を2024年から実施すると決定した。これによっていつどのように伸びるかわからない給与を増やす方向よりも、投資によって資産を形成していくことが国によって推奨されるという状況になったと理解することができる。 r>g の中で、これまでは gによる家計の維持拡大が基礎にあったものを、それにr が加わることを前提とした社会になるということでもある。

この変化についていける世帯とそうでない世帯の差が生まれるであろうし、また ついていけたとしてもr と g の両方に立脚しながら家計を運営していくということは、これまで多くの日本の世帯が経験してこなかったことだ。

こうした新たなユーザー・生活者の状況に対応して、スタートアップがそのペインを解消する商品やサービスを提供することによって、新しいビジネスチャンスが開ける可能性もある。

少なくても来年(2023年)1年程度の間は経済的には低調な状況が続くのかもしれないが、この間に次のフェーズに向けての準備を進めておき、資金調達が必要な場合にはその調達方法を工夫しながら過ごすことが、来年一年の大切な過ごし方になりそうだ。

世界経済は2021年までの常識とは異なった新しいフェーズに入った。

本年も一年お読みいただきありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。 


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