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ソングライティング・ワークブック 第103週:いろいろな楽器に対して書くときにすること(2)

ジャズのビッグバンドについて。ただし私は専門家ではないので、より深く知りたい人への入り口としては、Evan Rodgersがブログでビッグバンドのアレンジの手ほどきをしているので、そちらのほうを参考してください。

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ビッグバンドの場合

楽器編成には意図がある

典型的なビッグバンドの編成では、サキソフォン5本(2アルト、2テナー、バリトン)、トランペット4本、トロンボーン4本(3テナー、バス)、それにリズムセクションが加わる。1930年代ぐらいに一つの場所で大勢の観客を踊らせようとすれば、これぐらいの大きな編成が必要だったということだろう。

あくまで数の上での話だけれど、一つの楽器グループでセブンスコードの構成音を全て鳴らすことができる(サックスはナインスコードの構成音を鳴らすことができる)。実際それぞれのグループが音の壁を作って、寄せては返す波のように迫ってくる。そういうことがしやすい編成だ。下の例はBenny GoodmanとPérez Prado。

時代が下るとダンスのためではなく、鑑賞のためという性格が強くなる。リズムはエキサイティングだけれど、テンポやブルーヴのヴァリエーションは増え、ソリストたちはますます個性や名人芸を披露する機会が増え、ハーモニーはより刺激的に、また複雑になる。Stan Kentonなどがいい例だろう。

ビッグバンドの「シャウトコーラス」

そんなビッグバンドのだいご味といえば、一本のメロディを複数の奏者がハモりながら吹く部分だろう。日本の学校ブラスバンドなんかでもよくやられているWoody Hermanと彼のオーケストラの『Four Brothers』の4本のサックスによるビバップ風メロディの演奏などがその例だ。

こういうのは、ビッグバンドの世界ではsoliと呼んでいるらしい。ソロの複数形だ。でもこれは4つの独立した声部ではない。4人(この場合は)ともあたかもソリストのような複雑なメロディを吹くけれど、一体となって吹く。本質的には一声部で、それが太くなったものと考えるのがいい。

こういうのは、クラシカルの和声実習で教えているような書き方(コモンプラクティス)では書けない。平行、平達、交差、連続何度、何でも使う。ただ、コモンプラクティスの和声とも共通する部分もあって、一つの楽器グループの中で一番目立つのは一番高い音で、その次に一番低い音が目立つ。また、密集しているか乖離しているかによって響きが違う。密集しているとげんこつで殴るような響きになり、乖離しているとカーペットのように響く。密集と乖離を混ぜると一番高い音と低い音が反行(一方が上行、もう一方が下降)するような動きも生じ、心地よい変化が現れる。

サックスはこの編成では一番機動性に優れているので、『Four Brothers』のようなことをやるのに適していると言える。響きの華やかさはトランペットが一番だけど。そして、サックス以外の楽器も合わせて皆が一斉にsoliをやるような場合もある。これをビッグバンドの世界では「シャウトコーラス(shout chorus)」と呼ぶようだ。ただし、トロンボーンは低い音でごちゃごちゃ動くと音が濁り、また機動性もないので、実際にはトランペットとサックスが動き回って、トロンボーンはアクセントを付けるだけ、というような解決もされる。トランペットが高い音域で密集していればそのオクターブ下でトロンボーンが同様のことをしても効果的だろう。

また、クラシカルのオーケストラと違う点で留意したいのは、譜面があるとはいえ、アーティキュレーションや装飾など、かなり演奏者の個性にゆだねられるということだ。そこはやはりジャズ(ビッグバンドの曲を学校のブラスバンドが演奏するときはまた事情が違うだろうけど)なのだ。特に一番トランペットは花形なので(ヒエラルキーがある)、オクターブ下にほかの楽器を重ねるのはともかく、たとえばアルトサックスをユニゾンで重ねるのはあまりよくないらしい。ピッチのずれが目立つという問題もあるけれど、トランペット奏者の自由度が減るということもあるからだ。

書いてみよう

ちょっとそういう断片を書いてみようか。先にお断りしておくが、一応トロンボーンのポジションなどチェックして書いてはいるけれど、これから以下に示す例では指使いやアンブシュアのレスポンスなど、結構難しいところがあるかもしれない。

ピアノを使ってスケッチを進める。まず、ビバップ風の16小節のものを思いつくままに書いてみる。左手のパートはルートだけメモしておく。どの道あとで変わるだろう。

MP3プレイバックを聴くことができます。

一番目立つトランペットから先にsoliを作る。上のメロディを一番トランペットに与え、残りを考える。

トランペットパートのMP3プレイバック。

次にサックス。上に述べたように、1番アルトサックスと1番トランペットをユニゾンにして以下コピペというようなことをしない。サックスグループでは一番アルトサックスが一番目立つので(ソリストとしては一番テナーの方が脚光が当たることが多いようだけど)、そこから書く。基本的に2番以下のトランペットを参考にしながらその音を拾う感じになる。トランペットグループと違う音を選ぶと濁りやすくなる。バリトンサックスはバストロンボーンとベースと一緒に動くことにして、上の4本とは違うことをする。

サックスパートのMP3プレイバック。

今回はトランペットのパートがそれほど高くないので、トロンボーンはバリトンサックスと強調してアクセントを付ける役割とした(よくプロのビッグバンドにはscreamerと言って、やたら高い音を出せるトランペット奏者がいたりするけれど、今回はそういうのは設定しなかった)。

トロンボーンパートのMP3プレイバック。

全体としては以下のようになる。ベースは本来コード表記と若干の決まったところとを混ぜて書くのが普通だろうが、今回はトロンボーンとバリトンサックスとユニゾンになるところが多いので、全部書いた。ただしこれをもとに装飾したり、よりいい感じの音を弾いてもらって構わない。

MP3プレイバック。

Musescoreでも楽譜を読みながらMP3プレイバックを聴くことができます。


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