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ソングライティング・ワークブック 第51週:性格とスタイル

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「表現」についての断片

個人的な事柄

なぜそうなったのかよくわからないところもあるけれど、若い時は音楽で何かを描写するのはダサいことだと考えていた。今思うに、当時は何かを表すより、スタイルのほうにより興味があったのではないか。この場合のスタイルという言葉は、ジャンルや作風という言葉と区別されなければいけない—文章で言えば文法のようなものという意味だ。言葉が何を言うか?ではなく、言葉をどう並べるか?どういうときに言葉は言葉として機能するか?そんなことにより興味があったのだろう。

でも、どんなに放っておいても「意味」というのは何らかの形で残る。「実験」として始まったものにもたくさんのフォロワーができれば、やがてジャンルとなり、「文化的な意味」を持つことになる。いわゆる「ミニマルミュージック」と呼ばれていたものが何らかのアイデンティティを表すようになる(ずいぶん前にNico MuhlyがPhilip Glassなどを論じながら、自分はその「アメリカの伝統」の流れにいる、というようなことを彼のブログで言っていたのを読んだことがある)。あるいは、いくぶん「メランコリックな」響きのする、かといってあまり邪魔をしない、カット&ペーストしやすい、映画やテレビの付随音楽として使いやすいものになる。

人は物事の背後に意味(背後にある誰かの意図)を見出さそうとする傾向がある。それが人を科学上の発見に導くこともあれば、陰謀論に導くこともある。作者がロールシャッハテストのようにどうとでも取れるものを創ったとしても、見る人はそこに何かを見る。

だから、意図、表現、感情、描写、そういった事柄から音楽を作ることを始めても、別に不都合はない—そう考えるまでに、ぐるっと一回りするように、私の場合は時間がかかった。次の問題は、それをやりたいか?ということだった。

作品の評価の仕方

ある作品の評価の仕方として、作者に対し(自問自答でもいいだろう);

  1. 何についてそれを創ったか

  2. 聴く人(見る人)に何を感じ(考え)させたいか

といった事柄を問い、

  • 1の選択は2の目的に対して適当か

  • 作法は2の目的を実現したか

といったことを検討してゆく、といったやり方がある。単刀直入なやり方だけれど、学習の場では有効である(評論の場ではほかにいろいろな事情が考慮されるだろう)。これの良い点は、「趣味」をひとまず横に置いといて作品を検討することができるというところだ。問題は、作者は作品を創り始めるとき、いつも1と2の事項を意識しているわけではない、ましてや言語化しているわけではない、という点だ。作りながらだんだんやりたいことが見えてくる、ということはよくあると思う。もうひとつの問題は、作者の意図が意図通りにオーディエンスに伝わることが、いつも作品の「成功」を意味するとは限らないということだ。

作者として生き永らえる

とりあえず何か作品を創り続けていきたい、と考えるなら、利用できるものは何でも利用する。描写であれ、感情であれ。小さな子供が自転車を練習するとき、「電柱にぶつかってはいけない」と注意するとかえってぶつかってしまうように、人生でも「ああはなりたくない」と思っているとああなってしまう、ということがあるように思う。「何を避けるか」というのはあまり役に立たない。「どこへ行くか」とターゲットを決めることのほうがたぶん大事だ。

課題76

この課題は譜面を書いてもよいし、録音(打ち込みを含む)してもよい。声、楽器(ヴァーチャル楽器や電気的な音色を含む)を選びなさい。「喜び」「悲しみ」「怒り」といった感情を表す平易な単語、あるいは「戦争」「平和」「無邪気」「激流」「恐怖」「哄笑」「元気」「喧噪」といった、抽象語でも自然現象を表す語でも、なんでも良いが、何となく動きを感じ取りやすい言葉を探し、自分で以下のような課題を作る;

  • アルト(あるいは女性の主に地声の声域)ソロのための不機嫌なメロディ。

  • バスクラリネットのための哄笑するメロディ。

  • トイピアノと鍵盤ハーモニカとリズムマシンのための無邪気な伴奏パターン。

  • 3本のトロンボーンとRoland909のキックのための喧噪を表すパターン。

  • 混合声(多数)のユニゾンによるシュプレヒコール(単純なひとつのセンテンスを作る)の繰り返しとヴィブラフォンとハモンドオルガンによる怒りを表すパターン。

  • etc…

課題を作ったら実施する。言葉を決めたら紙とペンを用意して線などで落書き(抽象画?)してみるのも、どんな音の動きがあり得るか考えるのに役に立つかもしれない。

歌詞を書くのは得意で音を作るのは苦手という人は、課題を作るところまでを楽しんでもいいだろう。

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