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ソングライティング・ワークブック 第36週:伸ばすと刻む

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流れを感じることについて

作曲を進めるには自ら流れを生み出しそこに浸ることが必要だ。流れの感じ方は人それぞれであり、主観的なものだ。そして、流れというものは、それを感じたことのない人には説明しにくいことでもある。音が音を呼んでくるような感じではあるのだけれど。

そういう感じを得るためのスケッチの方法として提案したいのは、とりあえずテンプレートというものを取っ払って始めることだ。ここで言うテンプレートとは、たとえばヴァース、プレコーラス、コーラス何小節とか、各小節のコードであるとか、そういったものだ。

流れを感じることが必要、と言ったけれど、実は歌のような一般的には短い音楽では、そういうものを感じなくてもできてしまうところがある。だから多くのポップスはテンプレートでできている。そこは頑張らなくとも、ほかで頑張れば(プロデュースなど―録音、ミキシングなどを含めて)、面白いものを作ることができるからだと思う。労力や時間の配分の上で、メロディライティングの優先順位は必ずしも高くない。

それでも、たまにはこんなこともやってみては?という課題を提案する。ここではテンプレートどころか拍子もない。

課題64

拍子ではなくパルスを送って推進力にする

このやり方はギターでもできる。テンポ・ルバート(テンポを定めないで)で思いつくままに歌うと同時に同じことを楽器で弾く。長く伸ばす音の下でコード、単音、パワーコード、クラスターなど、声を支える音を連打する(この例ではコード)。和声的リズム(ひとつのコードの長さなど)は気にせず気分に任せて長くしたり短くしたりする。息継ぎの間を十分取る。連打する速さも変化してよい。連打している間に歌っている音程を変化させてもよい(つまり連打している上でメロディを歌ってもよい)。次に何のコードにしようかなどと考える瞬間ができても構わない。楽器で歌っている音をなぞることをやめてもよい。

一人で即興的にスケッチするときは、時間はあなたの思いのままにある。12小節や32小節できっちり頭に戻ってくる必要はないし、そもそもテンポが正確である必要は全くない。次に何かやってくるまで待ったり逡巡したりする瞬間があっても構わない。あ、この音じゃない、と途中で変更しても構わない。

そうやってぎこちなく進めていても、音の流れというものは何となくできてくる。ここまでこう来たから次はちょっと盛り上がりたいとか、この辺でエネルギーがなくなってきたのでやめようかとか、今歌ったものをもう一度繰り返したいとか、感じる瞬間がある。流れを感じることが目標である。

連打する、パルスを作り出すことで、推進力を得ることができる。これは単にシンセパッドやオルガンでビャーと伸ばすだけとは違った効果がある。また、もっと細かいトレモロやトリルやアルペジオや音型ででも同じように推進力を得ることができる。よくオーケストラ音楽や、ストリングスが入る音楽では、盛り上がる部分でストリングスがトレモロで弾いたりする、ああいうのも同様の効果だ。

また、ある種の民謡を思い出してみてほしい。歌い手が「アー」と伸ばしている間、三味線のような楽器がベンベンベンベンと弾いているような、あれである。拍子はないけど、パルスがある。

1回(ひとつながり)につき30秒とか1分とか2分とか、それぐらい続ければ十分だろう。ひとくさりやったら、また気分を変えてひとくさりやる。

楽器でコードなどを連打しながら歌う。最初は一つのコードなどで長く、変えたいと感じるまで続けてみるのがやりやすいだろう。譜例では3連符や4連符がかかれているけれど、もちろん頑張って数えてやっているのではなく、気ままに歌っていることを表しているだけである。

John Jacob Niles

たとえば、John Jacob Niles(1892-1980)が歌う『Black Is The Color of My True Love’s Hair』を聴いてみよう。何となく拍子のようなものは感じられるが、ルーズだ。

『The Hangman』では、楽器は句読点を打つためだけに使われている。

クリスマスキャロル『I Wonder As I Wander』では、楽器は連打する部分と合いの手を入れるように入る部分がある。

ちなみにLuciano Berio(1925-2003)にはいろいろな民謡をソプラノと室内アンサンブルのために編曲した『Folk Songs』という洒落たシリーズがあって、人気がある(後にオーケストラ版も作られた)。『Black Is The Color Of My True Love’s Hair』と『I Wonder As I Wander』がその1曲目と2曲目に採られている。


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