見出し画像

ソングライティング・ワークブック 第141週:Violeta Parra(2)

ソングライティング・ワークブック目次へ


Violeta Parraの作品を概観するのに役立つ資料

前回述べたようにチリでは国民的なシンガーソングライターなのだけど、作品や背景を概観する本となると、しかも私に読めるものとなると、検索してみても少ない。イギリスの学術書出版社、Palgrave McMillanから、『Mapping Violeta Parra's Cultural Landscapes』という本が出ている。ebookにもなっている。

編集はスペイン語とイタリア語の教授(退官している)で、Violeta Parraの研究者であるPatricia Vilchesという人。編集者本人の文章もあるが、他に7人の大学の研究者が原稿を寄せている。うち2人がチリのサンチアゴの大学の研究者で、あとは合衆国とイギリスの大学に籍を置いている研究者によるもの。

スペイン語を聴きとれる人には、前回紹介したように、YouTubeにドキュメンタリーがいくつか上がっている。また伝記映画『Violeta se fue a los cielos(ビオレタは天国へ行った)』が2011年に公開されている。『Mapping…』の方でもこの映画に言及している。

生涯について要点だけ

  • 1917年生まれ。ウィキペディアでも生まれた地はSan Fabian de AlicoまたはSan Carlosとなっている。父親は音楽教師ということだけれど、実際には職を求めて転々とする生活だったらしい。

  • 兄、Nicanor Parraは詩人で、1950年代の初めにVioletaに民謡の採集を勧めた。この二人の子供たち、孫たちも有名なポピュラー音楽家である。

  • Violeta Parraが私たちの知るVioleta Parraになるのは1950年代で、30代を過ぎていた。ここから民謡を採集し、自らの作品を創り、レコーディングをし、ラジオ番組のホストもするようになり、人々に知られるようになった。

  • 民謡を皆で演奏し聴く場所として、サーカステントのような大きなテントの場を設営した。最終的に経営には失敗した。

  • 民謡の採集はテープレコーダーで行った。また、自分自身でも弾き語りできた。本人の弁では楽譜は読めないという。ただ出自がもともと田舎の無名の民謡歌いたちに近かったため、アカデミックな研究者とは違うやり方で採集することができた。

  • 1955年以降、何度かヨーロッパに長期旅行、滞在している。ソビエトや東欧を含む各地で演奏、ロンドンやパリでレコーディングもしている。1959年に肝炎を患い動けなかったため刺繍やパッチワーク、油絵、針金細工などを始め、個展を開いていたが、1964年にはルーブルの装飾美術館に招かれて個展を開いている。

  • 若い時から共産党の催し物に加わっていた。最初の夫が共産党の活動家だった。

  • Pablo Neruda(チリの国民的詩人、日本でも南米文学を学んでいる人は知っているだろう)の知己を得ている。彼の自宅でコンサートを開いたこともあった。Parraの死後、1970年に詩を寄せている。

  • 作った歌、ギター曲の数は150ほど。

  • 1967年に自殺。

「フォーク」と「民謡」

話は逸れるけれど、「folksong(フォークソング)」と「民謡」は本来同じ意味なのに、日本では外来語とその訳語がそれぞれ示すものが違うということが起こる。つまり、「民謡」というと、たとえば『江差追分』とか、「郷土芸能の歌」という意味になり、「フォーク」というとだいたいアコースティックギターで弾き語りするような、むしろアメリカ由来の日本化したものを示したりする。また、『コンドルは飛んでいく』みたいな南米由来だと「フォークロア」と呼んだりする(今はそんなことないのかな?)。

そもそも「folk」は「人々の」ぐらいの意味しかないので、そこには労働歌(田植え歌なんかも含む)もあれば祭りの歌もあり、酒席での歌もあれば恋歌もある。「folk music」の定義はじつは難しい。ある人は作者が不明であることを条件にしているかもしれない。それだって本当のところ人によって意見が分かれるだろう。

あのギター弾き語りの「フォーク」は実は由来は「フォーク・リバイバル」から来る。民謡の採集とそれにインスピレーションを得た創作というのは、世界中の近代化が進んだ場所で行われていたとみるべきだ。近代化が進んで生活様式が変われば失われる芸能がある。それを保存したいと多くの人が思っただろうし、近代化した中で古い歌の「心」を新しい音楽に活かしたい、そう考える人も多かっただろう。

たとえば合衆国ならPete Seeger(ピート・シーガー、1919年生まれなのでほぼVioleta Parraと同世代)が有名だ。Peter, Paul & Mary、Joan Baez、Bob Dylanなどが加わった。日本のポピュラー音楽のジャンル分けで使われる「フォーク」は、この「フォーク・リバイバル」を輸入したものである。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?