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一生の、一生のお願い 第5話

 日曜日。駅前で待っていたら、祐輔から「五分くらい遅れる」と連絡が入ってきた。

 またか。

 本当、あいつは時間にルーズだ。知り合った頃は待ち合わせの度にイライラしていた。怒れば一時的には直るが、すぐに戻ってしまう。おかげさまで最近は「いつものことか」とは思えるようになってきた。

 小説を読みながら時間を潰していたら、「ごめーん」と言いながら祐輔が歩いてくる。

「走ってくるとか、ちょっとくらい申し訳なさそうな振りしろよ」

「えぇ、オレと貴史の仲じゃん」

 コイツ、また遅刻慣れしてきたな。この辺りで一度、締めた方が良さそうだ。

「アホか。たまには何かおごれ」

「わかったよ。じゃあ、買い物が終わったらカフェでも行こうぜ。そこで一杯おごればいいだろ」

「サンキュ」

 これまで通りなら、祐輔も少しの間は時間通りに来るようになるだろう。

 俺たちは洋服屋が集まる通りを歩き、祐輔が行きたいという店に向かう。

 カジュアルな雰囲気のアイテムが揃っている祐輔の好きそうなブランドだ。ブラブラ店内を眺めていたら、祐輔が俺を呼び止めた。

「これ、どうかな」

「似合うとは思うけど。この前、同じようなの買ってなかったっけ」

「ううっ、確かに」

「それもいいけど、こっちの奴とかお前に似合うんじゃないか」

 服を手に取りながら話していたら、チャンスとみたのだろう。女性の店員さんが寄ってきた。

「こちら、気になりますか。このシャツは今年の新商品で、普段ウチのブランドでは使わない色を使ってるんですよ」

 俺は洋服を手に取ってみる。よく見れば、織り方が特徴的だ。

「確かにこういう色のシャツってあんまり見ないよな。それに、ここの作りがお洒落じゃん」

「そうなんですよ。ご試着してみますか」

 店員さんはじっと祐輔の方を見る。

「じゃあ、お願いします」

 祐輔はシャツを受け取って、フィッティングルームに入って行った。

 ヤツが着替えている途中、店員さんが俺に話しかけてくる。

「一緒に買い物されるなんて、とっても仲良しなんですね」

 洋服に限らず、前から祐輔の買い物にはよく付き合っている。自分では気にしたこともないが、世間ではそういう目でみられるんだな。

 そう思っていたら、フィッティングルームから祐輔が出てきた。普段は着ないデザインだが、ヤツの雰囲気には合っている。

「おぉ、似合うじゃん」

「ええ、本当にお似合いですよ」

「そうかな。じゃあ、これ頂いてもいいですか」

「ありがとうございます」

 祐輔が元の服に着替えて、店員さんに試着した服を渡すと彼女はカウンターの方へ歩いていった。

「即決だな。いつもならもっと時間かけるのに」

「まあ、気に入ったから。それに貴史も良いって思ったんだろ」

「まあな」

 ほめた手前、それを言われたら何も言えない。二人で話をしながら店員さんが待つレジの前に行く。

「それではこちら、税込で二万円になります。お支払はいかがしますか」

 えっ、高い。俺はそう思ったが祐輔は気にする素振りも見せずに「じゃあ、現金で」と言って支払いを済ませた。

 店を後にしてカフェへ向かう途中、俺は祐輔に尋ねた。

「煽っておいてなんだけど、二万もするのによく買ったな」

「そう?丁度バイト代が入ったところだったから『いいかな』と思って」

 うーん。

 祐輔のお金の使い方に対して、俺が口を出すことじゃない。けれども、今までだったら値札と散々にらめっこをした後に買わないこともよくあった。

 コイツ、大丈夫なのかな

 そう思っていたら、祐輔が足を止めた。

「ここのカフェ、確かお前好きだったよな。遅刻のお詫びはここでいい?」

 その店は席が広々としていて、のんびりできる雰囲気だ。混み具合もほどほどだから、話をするにも丁度いい。

「そうだな。ここにしよう」

 席に通されて、落ち着いたところで俺は店員さんを呼ぶ。

「本日のブレンドで」

 祐輔はメニューとにらめっこをしている。

「ええっと、どうしようかな。本日のケーキって何ですか」

「今日はチョコレートブラウニーです」

「じゃあ、それを紅茶とセットでお願いします」

「かしこまりました」

 店員さんはオーダーを書き留めると、メニューを回収してキッチンの方へ戻っていった。

「祐輔、本当に甘い物好きだな」

「いいじゃん、好きなんだから。最近は控えてたけど、久しぶりだからいいの」

「お前、けっこう食い意地はってるよな。そのわりにはあんまり太らないけど」

「着やせしてるだけで、実際には太るよ。貴史の方が太らないじゃん」

「当たり前だろ。俺はプール行ったり、それなりに努力してるんだよ」

「そっか。オレもジムでも通って、筋肉付けようかな」

「うーん、お前のルックスでムキムキはちょっと合わない気がするぞ」

「なんだよ。オレはもっと男っぽくなりたいの」

 そのままの方がかわいいのに。

 は? 何を考えているんだ、俺は。慌ててそれ以上考えるのを止めた。

 メニューが揃って、大学の話や祐輔がこの前教えてくれたアニメの話をしていたら、不意に男性の声がした。

「ショウじゃん。お前、ここで何してるの?」

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