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ショパン国際ピアノコンクールをゆるーく全力解説!

オリンピック真っ只中ですが、たまには真面目にピアノをやっている身として、クラシック業界で今ホットな話題のショパン国際ピアノコンクールについて。

ショパン国際ピアノコンクール(略称:ショパコン)の予備予選が4月から延期され、7/12〜7/23にようやく行われました。
日本からは31名も予備予選に参加して、本大会へ進んだのは13名。
おめでとうございますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!

漫画/アニメ『ピアノの森』でこのコンクールを知った方も少なくはないはず。
漫画の話だと思ってるそこの君!違うのよ!
実在する、有名・オブ・有名な!権威ある!ピアノコンクールなのよ!

「名前は知ってるけど、どういうコンクールなの?」という人もきっとそこそこ多いよね。
ショパコンをちょっと知ったふうに観られるように、解説しよう。(何様)


ショパン国際ピアノコンクールとは

正式名称はフレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール
国際ピアノコンクールでは最古と言われていて、1927年の第1回から、5年ごとに開催
16歳〜30歳のプロレベルのピアニストが応募対象で、課題曲はショパンのピアノ曲のみ
通常のスケジュールでは、3月にビデオ審査、ポーランドのワルシャワで4月に予備予選、10月に約3週間の本大会(ステージ1、ステージ2、ステージ3、ファイナル)と入賞者のガラ・コンサートという長期戦。
エリザベート王妃国際音楽コンクール、チャイコフスキー国際コンクールと合わせて世界三大コンクールと言われている、世界を目指す若手ピアニストの登竜門

これまでの入賞者はアシュケナージ、ポリーニ、アルゲリッチ、中村紘子、ツィメルマン、内田光子、ブーニン、横山幸雄、ユンディ・リ、チョ・ソンジンなどなど…
クラシック好きなら必ずその名前や音源を聞いたことがあるであろう、名だたるピアニストたちが勢揃い。

本選の前日がショパンの命日である10月17日は、場所はショパンの心臓が安置されている聖十字架教会で、メモリアルミサが執り行われます。
曲はモーツァルトのレクイエム。
コンテスタントや審査員だけではなく、ワルシャワ中の人たちが参加して、ショパン大先生に思いを馳せるそう。

国内コンクールはステージごとに参加費がかかり、滞在費は参加者持ちだけど、ショパコンは約12,000円ほど。国内コンクールの予選出場費と同じくらい。
本大会に進んだコンテスタント(参加者)には主催者側から滞在先が無償で提供される高待遇!
(とはいえ、そこに至るまでのレッスンとか渡航費とかはかかるのよ…)

日本人では優勝者は出ていないものの、実はロシア・ポーランドに続いて3番目に入賞者が多い。
ショパンは下手と言われがちな日本人、意外とやるじゃん。

第18回の今回は、2020年に開催される予定が、新型コロナウイルスの影響で2021年へ延期。延期の会見では主催から出されたコメントが演奏家のことをしっかり考えていて、とても素敵。

2020年開催は参加者、審査員、プレス、メディアが世界中から集まり、感染リスクが大きい上に、国をまたいだ移動が困難。
参加者には外出制限の影響で、良いピアノで練習ができない、レッスンを受けられない人もいる。キャリアを築く重要な場なので、最高の状態で開催する責任義務がある。

芸術にとって、聴衆とのライブのコミュニケーションは欠かせない。聴衆なしの開催はできない。

無観客での開催を決行するコンクールが多いなかでこの英断。更にこの会見の場所はショパンの生家前。会見の詳細はこちらの記事を。

どんな曲を弾けばいいの?

クラシックが好きな人はだいたいショパン好きだし、興味はなくても名前は知っているし、聴いたことある曲が1つくらいはあるし、お菓子の名前にもなったくらい有名。

ショパンは『ピアノの詩人』と謳われた人。
技術はもちろん、表現力や歌心が重要な曲が多いです。
『ショパンのピアノ曲』といっても、
エチュード、ワルツ、ノクターン、ソナタ、ポロネーズ、バラード、スケルツォ、マズルカ、即興曲、バルカローレ、前奏曲、幻想曲、ピアノ協奏曲…
と挙げ始めたらキリがないくらい膨大にピアノ曲がを遺しているショパン。

その膨大な曲数から各ステージに合わせて課題曲が指定されていて、その中からコンテスタントは自分が弾く曲の選定・準備をするのです!
最終まで勝ち残ることを想定した準備なので、数年かけて準備するコンテスタントがほとんど。

課題曲は下記。見ただけで白目むきそうなエグみ。
ステージ2は課題曲が被っているので、ステージ1とは異なる曲を演奏しないといけません。
どれだけ過酷かというと、ショパンの作曲した全ピアノ曲を演奏会に出せるレベルで弾けないとダメかも…ってくらい。

■ビデオ審査
ステージ1と同じ課題曲。

■予備予選
・指定のエチュードから2つ
・指定のノクターンまたはエチュードから1つ
・バラード第1番〜第4番、舟歌、幻想曲から1つ
・指定のマズルカから2つ

■ステージ1
・指定のエチュードから2つ
・指定のノクターンまたはエチュードから1つ
・バラード、舟歌、幻想曲、スケルツォから1つ

■ステージ2
・バラード、舟歌、幻想曲、スケルツォ、幻想ポロネーズから1つ
※ステージ1でスケルツォを演奏した場合は、それ以外
・指定のワルツから1つ
・指定のポロネーズから1つ
・その他ショパンの作品
演奏時間を上記と合わせて合計で30〜40分におさめる

■ステージ3
・ピアノ・ソナタ第2番、ピアノ・ソナタ第3番、24のプレリュードから1つ
・指定の作品番号のマズルカを1セット
・その他ショパンの作品
演奏時間を上記と合わせて合計45〜55分におさめる

■本選
・ピアノ協奏曲第1番、第2番どっちか

※時間が指定されているステージ2・3はオーバーしたら審査員が演奏を止めることがある

上記の『指定の◯◯』って何が指定されてるの?という方、東京国際芸術協会が出している、こちらの募集要項のPDFに細かく載ってます。
英語かポーランド語いける方は公式サイトでどうぞ。

楽譜はパデレフスキ版が推奨されることが多いけど、ショパコンではエキエル版が推奨。(指定ではない)

何をどう審査されるの?どんな賞がもらえるの?

国内のコンクールで(一部を除き)は審査員のなかに自分が師事している先生がいる…というのはよくあること。
私も高校生の頃に出ていた某コンクールでは予選の審査員に師匠がいたりして、自分の生徒にも点数をつけてました。

ショパコンでは、審査員が自分の教え子に点数を入れるのはNG。点数の記載欄にSと書くそう。
審査員1人分の得点がつかないのは不利じゃない…?と思いますよね。
審査員は17人もいるので1人欠けたくらいで公平性は失われません
むしろ、自分の生徒を入賞させたくて満点をつけた…なんてことがあったら不公平どころか不正。大騒ぎになります。

ステージ1〜3は、1~25でポイントをつけた後、審査員が各コンテスタントを次のステージに進ませたいか?をYES/NOで判定。
YESが多いかつ、得点の平均点の高い順でステージ通過者が決定。
ファイナルでは、各審査員から最終順位の前提で、ステージ1〜3の演奏も加味した1〜10のポイントがつけられる。

ビデオ審査から予備予選には今回164人の参加者が進んでいますが、ステージ1に進んだのは87名。
更にステージ2に進むのは約40名、ステージ3は約20名、ファイナルは10名…と半分ずつに絞られていきます。

ファイナルに進出した10名中、6名までに順位がついて、入賞者として権威あるショパコンの歴史に名を刻むことになるのです…!
結果発表後、入賞者はメディアやレーベルに取り囲まれるという話もあるくらいで、入賞できたら将来は約束されていると言っても過言ではない。

更に素晴らしい演奏をしたコンテスタントには、順位+賞金(結構な金額)に加えてポロネーズ賞、マズルカ賞、コンチェルト賞、ソナタ賞が授与されます。

続いて、審査基準。
もちろん、演奏テクニック、表現力、正確性は審査対象になりますが、ショパコンはそれだけではない。
インタビューで審査員長がこう回答しています。

ショパンよりも自分を優先する人でないこと。
美しい音、明快なテクスチャー、語りの誠実さも不可欠。しかし、解釈の面で私がもっとも求めているものは、本気で取り組む姿勢、誠実さ、新鮮さ、真の感情、カリスマ性です。

正しく楽譜を解釈して、正確に弾くだけではなく、ショパンの意向や想いをいかに汲み取れるか、かつ表現力も自分の解釈ではなくショパンを尊重した表現ができているか…と。
演奏を通して人間性も見られます。性格や感情は音を通して伝わるもんね!

審査委員長のインタビュー記事はこちらをどうぞ。

注目の日本人コンテスタントは…?

私の独断と偏見で本大会に進む日本人コンテスタントはこの人たちは絶対に観るべき!という方々をあれこれ聴いたり調べたりしてピックアップしてみましたが、やっぱりこの5人かな…

角野隼斗(かてぃん)さん

YouTubeでも有名な『かてぃん』こと角野隼斗さん。東大の大学院在学中にピティナ特級のグランプリを受賞したエピソードはクラシック界もきっと震えたはず。
容姿端麗、頭も良い、ピアノも上手い…って天は二物を与えないんじゃなかったっけ?

きめ細かくてキレイな音色が特長で、いつも涼しい顔して楽しそうに弾いているのが印象的ですが、予備予選では見たことない感情が爆発した表情をされておりました。

最近では情熱大陸やMステ、題名のない音楽会…とテレビにも次々と出演して知名度爆上がり。noteも必見。

反田恭平さん

クラシックファンなら知らない方はいないのでは?というくらいの反田さん。ピアノの森の吹き替えピアニストも担当。
演奏活動の傍ら、会社経営をしていたり、情熱大陸や題名のない音楽会などのテレビ番組に出演したりと、大忙しなピアニスト。

力強くて迫力のある音色の中にも繊細さや柔らかさがある演奏をされる方。
予備予選の30分間の演奏があっという間だったくらい、反田ワールドに引き込まれた…!

反田さんの演奏でいちばん聴いてほしいのは、カルメン幻想曲。
この動画を観たらどれだけこの曲が超絶技巧オンパレードかが分かります…そしてそれを弾きこなす反田さん…好き。

小林愛実さん

小さい頃から活躍していて、前回のショパコンではファイナリストにもなっている小林さん。
9歳で国際デビュー、14歳でCDデビュー…と目を疑う経歴で、リアルのだめと言われています。
そして彼女も情熱大陸、題名のない音楽会に出演。
(このレベルになるとこの2番組に出るのはお約束。)

予備予選はさすが前回のファイナリスト!という落ち着きっぷりで、冷静にひとつひとつの音を丁寧に弾いているように感じました。
ひとつ前のコンテスタントと同じ曲なのに全然違う…エチュードOp.25-6は3度のハッキリとした音色に鳥肌たちました。

今回はぜひとも入賞してほしいなぁ…

牛田智大さん

小さい頃からニコニコしながらショパンやリストをゴリゴリ弾いていた彼ももう21歳…すっかり好青年。
私と同年代のピアノをやっている、やっていた人はきっと知っているはずだし、テレビにもよく出てたから見たことある人も多いはず。
今はモスクワ音楽院で留学中のよう。

今回、牛田くんは予備予選に出ていません。
な ぜ な ら !
浜松国際ピアノコンクールで2位になったので、予備予選免除で本大会から参加するのだとか…ショパンは幼少期から弾いていてお得意だろうし、今からめっちゃ楽しみ。

プーランクの即興曲15番「エディット・ピアフを讃えて」がめっちゃいいので、ぜひ聴いてほしい。
12歳でこの歌い方できるってすごくない…?

進藤実優さん

進藤さんも小さい頃から活躍しているピアニストのひとり。といっても、まだ18歳。
今回、ショパコンと同時にピティナ特級にも出る怪物級の若手ピアニスト…しかもピティナの一次予選ではバッハ弾いてるしね…
ピティナの二次予選は今週末。つい数日前までワルシャワにいたってどんな体力と精神力なのよ…?

息遣いまで聞こえてくるほど曲と自分を重ねるエネルギッシュな演奏が特長!
リストとかベートーヴェンとかをゴリゴリに弾いているイメージだったので、ショパンはちょっと違うかなと思っていた。(失礼)
本大会までめちゃくちゃ仕上げて来るんだろうな…と予想。

なお、今回の本大会に進むコンテスタントのリストは、ぶらあぼさんが記事にしてくれています!

海外はどこの人に注目したら良い…?

国際コンクールの醍醐味は、世界各国の一流若手ピアニストの演奏が聴けること。
予備予選では131人、本大会では73人が海外のピアニスト。誰かを絞るのは難しすぎて、国でピックアップ。笑

ロシア
入賞者をいちばん輩出しているロシアは外せない!今回は4人が出場します。
ロシア出身のピアニストや作曲家も多いし、日本人でも反田さんや牛田さんのようにロシアへ留学するピアニストも少なくない。
フィギュアスケートと同様にゴリゴリに育てられて若くして活躍し始める人も多いので、技術の高さに驚かされること間違いなし!

ポーランド
ショパンの祖国でもあり、開催国でもある本場ポーランドのピアニストは絶対に観ておくべし!本大会にも16名のポーランド人ピアニストが進んでいます。
予備予選で何名かポーランド人ピアニストの演奏を聴きましたが、やっぱりショパンはポーランド人だわ…と思わせる演奏がたくさん。
何が違うって具体的に表現できないんですが、フレーズの歌い方とか音色の作り方が「なんか違う…!」となります。

中国
今回、本大会出場がいちばん多い22名の中国。これだけ多いので、ファイナリストに必ず1人は入ってくるだろうな…と。
中国出身のピアニストでは、昨年亡くなったツー・フォンが入賞、ユンディ・リが中国人初かつ最年少18歳でのショパコン優勝者。
それ以外でも
・ピアノの森で吹き替えピアニストを担当した牛牛
・演奏中の表情が豊かすぎて顔芸とすら言われるランラン
・セクシーな衣装とルブタンの高いヒールで演奏するユジャ・ワン
と世界的ピアニストも多い!

韓国
日本に次いで、本大会出場が7名と多い韓国も見逃せない。
前回の優勝者、チョ・ソンジンも韓国出身ですね。
予備予選で何人か韓国人ピアニストの演奏を聴いてみたけど、とーっても良かった!チョ・ソンジンもそうだけど、柔らかい演奏をする人が多いイメージです。
韓国ドラマはちょこちょこピアノを弾くシーンが出てきたり、クラシック音楽がよく挿入曲として使われているので、クラシックに触れる機会が日常でも多いのかもしれないなぁ…と最近韓ドラにハマっている私の勝手な憶測。

まずはお気に入りのピアニストを見つけよう!

長々と書いてしまいましたが、コンサートやリハーサルと違って、たくさんの人の演奏を聴けるのがコンクールの醍醐味。
日本でもピティナさんがYouTubeでコンクールをライブ配信したり、過去のコンクール動画を出していますが、敷居が高いと思われがちなクラシックにおうち時間で気軽に触れるチャンス!

特にショパコンは同じ曲をいろんな人の演奏で聴けるので、人によって音色や曲のイメージが変わるピアノの魅力も楽しめるのではないでしょうか。

興味がある方はYouTubeから気になるコンテスタントの予備予選をYouTubeで観てみるのもアリ!
主催者がライブ・アーカイブ配信をしているので、ぜひ色々聴いてみて、お気に入りのピアニストを見つけてね!

作業用BGMとして流すもよし!知識をしっかり頭に入れて楽譜を片手に観るもよし!とにかく日本勢の演奏を聴き漁るのもよし!
みなさん、それぞれの見方、聴き方でショパコンを楽しんでください★

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