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【非升即走】復旦大学の教授殺害事件から見る中国の学界・社会問題

2021年6月7日15時頃(中国時間)、復旦大学で解雇を言い渡された数学科の教師姜氏(39)が、その決定を下した党委書記の王教授(49)の喉をナイフで切り裂き、即死させるという衝撃的且つ悍ましい事件が起きた。

私がこれを知ったのは、たまたまclubhouseでこの事件について中国人、華人が語るルームがあったからだ。それに入り、いろいろな話を聞くことができた。(その後、ネットでも大きな話題になっていたが、SNSなどではあまり触れるべきではない感じがあった)

また、事件が起きた復旦大学は、私が2007年に初めて中国にいき学んだ場所であり、見慣れた場所での悲惨な現場の写真を見て衝撃を受けた。(大学のプログラムで2週間ほど滞在した)

日本では見られないこのようなタイプの事件を理解すると、今の中国の過酷な競争や社会が抱える問題がわかる。

(中国もできるだけ情報の拡散を抑えているので、日本にはあまり伝わっていないが、中国では夫婦喧嘩で男が自爆するとか、農民がヤクザに絡まれて青龍剣を奪い逆に叩き殺す、みたいなショッキングな事件がたまに起きている…)

以下、事実として書いているものは次の文章に、また、非升即走についてはclubhouseでのディスカッションを基にしている。真相はわからない。これから司法の裁きを受ける過程で真実が明らかになることを願う。

https://new.qq.com/omn/20210610/20210610A0CNHL00.html

事件を起こした姜氏は蘇州大学の副教授。 2004 年に復旦大学で数学と応用数学の学士号を取得し、2009 年に米国Rutgers Universityで統計学の博士号を取得し、2009 年から 2011 年まで米国国立衛生研究所でポスドクの研究を行った。2011年から蘇州大学で5年間教鞭をとった後、復旦大学での職を得た。大量の引用がなされるような論文を何本も出し研究の成果を上げていたようだ。

犯行動機について、犯行後に警察に捕まり自ら述べている映像が出回っている。

解雇されたことだけでなく、長いあいだ「陥害」「劣悪的待遇」を受けていたと述べている。

また、記事によると、

加害者は、この2年間重度の鬱病を患っており、正常に教職が行えていなかった。

しかし、鬱病にも関わらず2019,2020年に価値有る論文を発表している。

アメリカ生活中に付き合っていた彼女がいたが、結婚せず39まで独身。

主に、鬱病の理由により教職を続けるのが難しいため、6年の期限付きの契約の更新はなされなかった。

その背景にある、中国の学界における「非升即走」を理解する必要がある。

これは、clubhouseでも沢山出てきたキーワードである。また、中国の大学で教えている私の友人からも聞いたことがある。

「非升即走」

これは、見たまま、昇進しなければ、去る、という意味だ。

昇進 OR 解雇

という厳しい学界のルールなのである。

日本も似たようなところはあるのかもしれない。

一般的に、博士の学位を得たら、助教など期限付きの契約で大学で職を得る。

しかし、その契約終了後に任期なしの准教授や教授の道に進めるものはほんの一握りしかいない。

これは日本もアメリカも同じであろう。

どこでも、価値有る論文の発表数、十分な教職経験、さらにはタイミングよくポジションがあること、決定権者に気に入られていること、など自分ではコントロールできな要素がある。

中国では、他国に比べてこうした要求や不確実なところが多いと書かれている。決定権をもつものに媚びへつらい苦難に耐えることが必要なこともあるようだ。

中国ではこうした競争の中で気が狂い決定者に対して暴行する事件が過去にも何度も起きているという。

この事件の根本的な問題はなんだろうか。

まず第一に、社会的地位、財力、このルールでの弱者であることが人生の評価を決めてしまう社会の価値観の問題だ。

真相はわからないが、加害者は周囲の人間と連帯したり、大学側とコミュニケーションを十分に取れていたかはわからない。

また、周りに彼の健康を気遣ってくれる存在がいたのかもわからない。

仮に全てを捨てて、学界の道でしか承認を得られない状況であったのであれば、その道が絶たれたら人生おしまいになってしまう。

まとめるのは難しいが、画一的な成功イメージが多くの中国エリートを競争させ、プレッシャーを与えているのは間違いない。





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