日本語の押韻論:単語韻と混成韻

 あまり一般的に使われることはないのだが、英語のrhyme typeにはmosaic rhymeというカテゴリーがある。

 定義を調べると、mosaic rhymeとは多音節の単語と複数の語でrhymeするものを差すようだ。

hypotenuse [hɑɪ.pάṭ.ən.ùːs]
lot o’ news [lάt.ə.núːz]

 要するに、単語同士の韻ではないrhymeを差す。日本語の訳語を当てるなら「混成韻」が適当だろうか。

 これを日本語に当てはめると、下記のような例は日本語のmosaic rhyme(混成韻)だと言える。


悪は

 一方、単語だけで踏まれる韻(単語韻)は下記のようになる。

<名詞による単語韻の例>

悪魔

<動詞による単語韻の例>
痛い
誓い

 品詞構成が異なると、混成韻になるのだろうか。基本的にはそうだと言える。特に下記のような例は「混成韻」としての性質を強く持っていると言える。

モラトリアム
他と違う

君ならまず
虹が架かる

 こういった複雑なペアの押韻を作りやすいのは、日本語の押韻の一つの特徴に思う。英語でも同じようなことができるが、条件が厳しい。
(追記:なぜ条件が厳しいかというと、英語にはストレスアクセントがあり、曖昧母音schwaが存在するから)

hypotenuse [hɑɪ.pάṭ.ən.ùːs]
I got a boot [ɑɪ.gάt.ə.búːt]

 「混成韻」でも音節数が少ないと、複雑さは感じなくなる。より音節数が多い混成韻になると、高度な印象を与える。

買いたい
傀儡

 「単語韻」でも音節数が多いペアであれば、複雑さはないが、シンプルな高度さを感じるようになる。

インデペンデンス
輪廻転生


 また余談ではあるが、下記のような音節数の揃わない押韻ペアは、効果的ではなくなる印象がある。

暗く
碧落

 格助詞で終わるような押韻も、効果的ではなくなる印象がある。

悪は
楽だ

 なぜ効果的でなくなるのかは、今後の考察に任せたい。

 このような観点で押韻を考える記事は少ないが、より多面的に押韻を分析/考察する手法として、「単語韻」や「混成韻」は使えるだろう。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/