英語のライムタイプ:多音節韻(マルチライム)について

 こんばんは。Sagishiです。

 今回は、Tachibuanaさんのブログで「マルチライム」に関する紹介があったので、早速自分の押韻論にも取り入れていこうと記事にしていきます。

 まだまだ勉強中な状態なので、完全に乗っかりなわけですが。

 「マルチライム」というのは、日本では聞き馴染みのない言葉です。これはUSのHIPHOPで生まれたライミング手法の一つで、「Multisyllabic Rhymes」のことです。つまり、多音節に渡る押韻を差しています。

◆マルチライムの例
Passing the boon
In the big Benz, Black and maroon

Scarecrows (feat. Roc Marciano) より引用

 USのHIPHOPにおいて、「Multisyllabic Rhymes」の先駆者はRakimです。

It’s on, so you can swerve when it’s heard in clubs
Thought patterns displayed on Persian rugs

Rakim『Guess Who’s Back』(1997年)より

 上記のリリックでは、「heard in clubs [hˈɚːd.in.klʌbz]」と「Persian rugs [pˈɚː.ʒən.rʌgz]」で、多音節にまたがって押韻がされています。([]内の「.」は音節の区切りを示す)

 重要なポイントは、ストレス(強勢)の置かれる音節だけ押韻されており、非ストレス音節は、押韻はしてもしなくてもどちらでも良い、ということです。

 ストレス音節の「hˈɚːd」と「pˈɚː」、「klʌbz」と「rʌgz」の母音を見れば、一致していることが分かります。対して、非ストレス音節「in」と「ʒən」は押韻されていません。

 英語は、ストレス音節で押韻をすることが非常に重要で、非ストレス音節はほとんどの場合で重要視されないです。これを多音節で押韻するのが、『多音節韻(Multisyllabic Rhymes)』です。

His palms are sweaty, knees weak, arms are heavy
There’s vomit on his sweater already, mom’s spaghetti

Eminem『Lose Yourself』(2002年)より

 Eminemも「Multisyllabic rhymes」を使う代表的なラッパーです。こちらも同様に、「arms are heavy [άmz.ɚ.hé.vi]」と「mom’s spaghetti [mάmz.spə.gé.ti]」で、ストレス音節で押韻しています。


 国内では、Gen-Aktion氏が「Multisyllabic rhymes」を先駆的に紹介してきました。

今日もまた なんとなく ツイッターを 開いた
しょうもない 政治家が ブリってる みたいだ

 「Pass(ing the)boonBlac(k and ma)roon」のように、三音節にまたがるフレーズ(押韻価)の中間の音節の押韻を無視して、第一音節語と第三音節語で押韻する、というのが「多音節韻(マルチライム)」の手法です。

 英語は、強音節と弱音節が交互になる言語特性であるため、強勢アクセントが置かれる音節の語では押韻をし、そうではない音節の語では押韻をしない、というのは非常に理にかなっているように思えます。

 日本語には語に強勢が置かれる特性はないので、マルチライムを試みると、第一語の頭韻と第二語の頭韻で押韻をすることになります。(フレーズ(押韻価)の中間にある拍節が抽象化していると、より効果的でしょう)

 日本語の例を既存の押韻理論どおりに読むと、単なる「踏み欠け」としか理解できないでしょうが、「マルチライム」という手法として見ることで全然変わってきますね。音声的にも十分な効果をあげているので、非常に手法としての説得力を感じます。

 いわゆる語感踏み(抽象韻)との違いですが、抽象韻はフレーズ(押韻価)全体で抽象度を高めて響きを出しているので、手法的に明確な差があります。

◆マルチライム
三時前の街並み
勘違いは飽き飽き

◆抽象韻
シュプレヒコール
浮いてるぞ

 マルチライムを知ったことで、押韻の解像度が上がりました!

 今後は、マルチライムのことをよく意識しようと思います。紹介してくれたTachibuanaさんにRespect。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/