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出芽 [歌詞]

  出芽
  詞:Sagishi 曲:k.TAMAYAN

 どこから生まれてどこにいくのか、分かりますか。
 分かりますか私は、私は。
 恋愛は楽しい。恋愛は、ある意味で私たちの救いだ、救い。
 時おり見せる表情が愛しい。愛しいから、立ち向かっていく。
 何度も見たいからよろこばせたい、よろこばせたいから。
 咥える、私が、こう。男性器をこう。
 咥えますとね、私が。
 咥えますと、彼は。よろこぶの。彼は。
 よろこぶ、の。
 淡い息切れに火照った肉体が断層に並ぶ転ぶ凍った熱量。
 何度も揺れる、の。
 呼気だけは切迫、切迫しているのに切迫、神経はすうっと張りつめて。
 ちょっとだけ心底にひろがっていくものに、見ないふり。
 できなくて、だから。
 男性器を咥えるのって、残酷だなぁ、って。思いはじめる。
 こんなに大事にも大事に舐めてあげているのに、彼は。
 とってもとっても愛しそうなのに。私。
 どろどろどろどろむかむかと歯切れの悪いおえつが、
 おえつが込みあげてきて、嘔吐が。
 込みあげて、まき散らす前に、ぐっと。
 ぐっとこらえて。心の底に。
 こらえて、でも吐けない嘔きがあって、胸のなかに。
 歯切れの悪さが胸のなかにただあるから
 目を背けることができなくて、できなくなって。
 だからわかってしまったのね。水溜まりになってしまった。
 私って性なんだね。
 私って性別、私ってそう。
 性別。
 性で生きている。
 無抵抗かな? 自覚。
 無抵抗な自覚。
 偏平とした地平が遠くひろがって見えている。偏平が、
 植わっているもの。
 はなくて、生えているものならある、硬質な嫌気。構え。
 専横心が横からしぃっ、しいっと私を見て。〝私〟を。
「あんたは――」って。
 だからたいしたことはないんだけど、なおさら。
 こんな風にはしたくなかったかなって。私は。
 したくなかったって思う。きっと。
 もっともっと、純粋でいたかった。
 見つめたり。
 触れたり。
 遊んだり。
 何気ないことで泣いたりしたかったんだ。
 ――それももう、できないのかなぁ、って。
 できてなかったのかなぁ、って。
 性とか形とかじゃなく、じゃなくて。
 球根でいたかった。慈しみでいたかった。
 気付いたら。
 私は暗い水の箱の水滴になった。
〝性別〟はひとを愛せない。私の理想の、理想じゃない。
 見つめても嫌な気がする。
 愛しても恋な気がする。
 言葉もきっと必要にならない。どうして。
 でもきっと、いいの。
 私がいいのっていう。いってくる。
 よろこぶ顔が見れる。ならそうしよう。
 そうだろうか。そうすることが果たして
 彼を愛することになるのだろうか。
 でもそれは愛なのだろうか。
 沃野の底で純朴な私が泣いて。
 いつか次に世界に生産されるまで現状を愛せ。
 彼も私も、彼女もあたしも、全部抱いて。
「あんた男だよ」
〝心理〟は私を覆すことができない。私の理想の、理想じゃない。
 彼は抵抗する。私は規定を続ける。
 自覚は瞬間の花束、束の間の拒絶は見違えた彼と薔薇の葛藤だ。
 認識の言葉に浪費される。
 性の私たちは冬も幸せだった。
 認識の私たちも幸せだった。
 でも。
 そうと言えないのだ。過去は始まっている。研ぎ澄まされた。
 アイという硬い絶望を常に抜け出すのだ。私は。
 アイをアイ。
 私を私のままだと。
 認識したまま、エゴに沈んでいる。
 だからよろこびを胚胎するから、嫌悪したい。
 お腹に抱えるどろどろは愛して。
 この愛しみも嫌な感情も、むしろ愛して。
 私は私を慰めて。拒絶したい。
 彼を、彼を。
 浅い球根の乾燥した根柱から存するために。
 吐き出してしまってもいい。空に華を探そう。
 嫌にさせるのは、
「こんなものか」だ。
 こんなものかであなたを歪めないで欲しい、嫌だ歪めさせない。
 無自覚でいられない。
 私は。
 私、認識の沃野に結びつける。
 提示にすぎない。広遠から生え出た存在で、
 私が種をまいて芽を出した〝私〟ではない。
 だから。
 だから、ここでもう一度、彼を、どこから生まれて。
 いくのか、どこか分かりますか、わかりますか、私とあなたは、
 見せる表情は時おり愛しい。
 から向かっていく。立ち向かっていく。
 膨らんでいる。硬く、確かな本質や躍動を愛壊せる。
 唾液で満たして、胸中の杏桃を呼気と切迫のなかで神経を許せる。
 神経を刺激する。
 ここが激情だと言い聞かせてくる。
 彼も同様な顔をする。
 そうさせる。私は。彼が落ちる。
 落ちる、どこまでも。奈落へ。
 陥穽へ。
 それはそう。
 そう。それはまるで。
 赤子だ。


詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/