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押韻論

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日本語の押韻の基礎的な考察や研究
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#言語学

川原繁人『言語学的ラップの世界』にツッコミを入れまくる記事

 こんばんは。Sagishiです。  先月、川原繁人さんの『言語学的ラップの世界』という本が出版されたので読んでみました、という記事です。  結論からいえば、この本には著者の推測・思い込みによる記述が多数含まれており、科学的な根拠がなく、妥当性に疑義があるような内容、また曖昧な表現が散見されます。  今回の記事では、わたし自身の考えの備忘録も兼ねて、色々とツッコミを入れていきます。舌鋒鋭い場面もあるかと思いますが、とはいえラップをまともに研究題材にしたことがある学者は貴

響きの押韻論:子音特性の整理

 こんばんは。Sagishiです。  以前『押韻の「響き」の評価指標』にて、「押韻の響きのレベル」を論じるのに「音節」「子音」「アクセント」を評価指標にできると書きました。  その後、『押韻論Ⅴ:日本語のライムタイプ』で音節とアクセントを一体的に捉え、「ライムタイプ」の理論にまとめました。この「ライムタイプ」の定義は、日本語の押韻への理解を高めるのに非常に有用ですが、「押韻の響き」への検討が十分ではない、という懸案がありました。  そこで今回の記事では、日本語の各言語音

日本語の重音節による韻④/『重音節韻』と『長短韻』

 こんばんは。Sagishiです。  新規に記事を書こうと思い、過去記事の重音節韻①を読み返したら、とんでもなく間違えたことを書いていてビビリました。特に問題がある点は修正しましたが、たった5ヶ月前の記事なのに意識がかなり変わりました。  どうやらこの5ヶ月程度で、言語学の基本的な知識がようやく身についてきたようです。本当によくしてくださっている有識者の方々には感謝をしたいですが、「私はそう感じる」をベースに議論をすることは本当に危険なことだと思いました。  ちゃんとア

『語感踏み』の定義について

 こんばんは。Sagishiです。  今回は『語感踏み』について、記事を書いていきます。  最近言語学まわりの知識がつきだしたことで、『重音節韻』を明確に説明できるようになりました。「重音節韻」を理解したことで、『語感踏み』の定義が、わたしのなかでよりクリアになりました。  そこで、改めて『語感踏み』とはどのようなものなのか、その仕組み・定義について検討・考察をしようと思いました。 1 『語感踏み』とは 『語感踏み』とは、2019年1月頃からラッパーの韻マンが主張をし

日本語の重音節による韻③/仕組みの解説

 こんばんは。Sagishiです。  今回は「日本語の重音節韻」について、仕組みを解説しようと思います。 1 重音節の定義 「重音節」(Heavy syllable)とは、音声学などで使われる用語で、CVVやCVCなどの構造をもつ音節です。Cは子音、Vは母音を意味します。要するに2モーラをもつ音節のことです。  対して、「軽音節」(light syllable)というのがあり、こちらはCV構造をもつ音節です。こちらは1モーラ音節です。  日本語の音節は基本的にほとんど

響きの押韻論:押韻の「響き」の評価指標

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、押韻の「響き」の評価指標について書いていこうと思っています。また、そもそも私が「押韻」を研究・分析しようと思った動機について、これまであまりまとめて書いてこなかったので、そちらにも触れていきます。 1 押韻を研究する動機 なぜ私が「押韻」を研究というか、こうやって考えたり調べたりしているのかというと、動機は2つあります。  ①ですが、もともと私の専門分野は「文学」です。特に「現代詩」が専門で、私自身「現代詩」を書きますし、詩

英語のライムタイプ:『パーフェクト・ライムの条件』について補足

 こんばんは。Sagishiです。  10年来の付き合いがあるやおきさんに『パーフェクト・ライムの条件』という記事を書いていただきましたので、今後の日本語の『押韻学』のためにも、いくつか補足・疑問などを表明しておきたいと思いました。  Pat Pattisonの著書『Essential Guide to Rhyming』によると、「完全韻(Perfect Rhyme)」の定義は上記となっています。  また、「完全韻(Perfect Rhyme)」以外にも様々なライムタイ

日本語の重音節による韻②/重音節の後部要素

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、以前の記事を別の観点から書いていきます。 1 重音節の特殊モーラを置き換えても響く 以前から日本語で押韻をしているときに、特殊モーラを含む音節(重音節)の後部要素を、別の特殊モーラに置き換えても、「響き」が感じられるな、と思っていました。  「酩酊/形成」のように、同じ要素をもつ重音節のペア同士(かつイントネーション同じ)の場合に響くのは当然ですよね。でも、「酩酊/全然」のように、特殊モーラ要素が異なる重音節のペア同士でも響

日本語の重音節による韻①/2モーラ音節を理解する

 こんばんは。Sagishiです。  日本語の音節を理解することで、より適切な押韻の響きについての理解ができるようになります。今回は「2モーラ音節」について書いていきます。 1 日本語の2モーラ音節(重音節)  日本語は基本的には「1モーラの音節」(軽音節)が中心の言語ですが、時々「2モーラの音節」(重音節)が起きることがあります。  日本語の「2モーラの音節」(重音節)が起きる条件は、下記を含む場合と一般的にはいわれています。  長音を含む場合、「アー」とか「カー」