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【#子供の成長記録】あんまり泣かない娘

なんだか不思議な新年。
いろいろと想定外の事情があって、夫も娘もいない。
特に娘とは、こんなに離れているのは初めてかもしれない。
彼女は今、遠いところにいる。
彼女の旅立ちの日は自分でも驚くほど寂しく感じた。
何か、自分の半分が無くなってしまったようだった。
いや、もう数日で帰ってくるので大した別れではないが、
彼女がもう少し年を重ねて、いつか本当に独り立ちする日の予行演習をしているような感じだ。

一人で静かに過ごす時間がたっぷりあるし、
彼女が生まれてからのことなどを思い返したりしてみる。

私は、結婚も出産もあまり興味なく好きなように自由に生きていたので、
ある時急に結婚することになり、
気づいたら妊娠していて、
出産予定日まであと2か月の、産婦人科の定期健診の日に、
彼女を産み出した。
ただの健診のはずが、お医者さんに「やばい、すぐ出しましょう」と言われて、「あ??」という間に彼女は私の体内から出てしまった。
なんか、母子ともにやばかったらしく、お医者さんにそう言われて夫は動揺して泣いたらしい。

でも私たちはどちらも無事だった。
いや、娘は超低体重児だったし、私もつらかったし、いろいろあったけど、まあ結果的に無事だった。

娘は、生まれたとき少し声を上げた。私は初めての出産で、帝王切開で、何もかもにびっくりしていて、あまり記憶がないけど、声をきいてほっとしたのは覚えている。
娘はすぐに保育器に入り、病院の管理下に置かれたので、私と夫は娘に会うために病院に通った。
ガラス越しに娘を見たり、そのうち保育器から出して抱っこしたりできるようになったが、ぜんぜん泣かないし、なんなら声を出すこともなくて、私は看護師さんにおそるおそる「この子、泣けますか?」と聞いたことがある。
「ちゃんと泣いてますよ」、と言われて、その時は半信半疑ながら、ホッとした。

いろいろあったけど、まあ結果的に彼女はすくすくと成長した。
生まれたばかりのころと変わらず、彼女はあんまり泣かない。

保育器から出てようやく我が家に迎えたころも、夜泣きはほとんどしなかったので、私は寝不足でつらかったというような子育てあるあるの思い出が一切ない。
私の後を追って泣いたり叫んだりした覚えもない。一人遊びも楽しんでいるような子だった。
スーパーのお菓子コーナーで駄々をこねられた覚えもない。「あなたが騒いだらお母さんはすぐに帰る」と事前に言って、私は有言実行していたので、駄々をこねるまでに至らなかったのかもしれない。

覚えている泣き顔がある。
めちゃくちゃおしゃべりの、ちょっと苦手な知り合いに道で出会ってしまったときのこと。「あらかわいいわ~!!〇×△・・・!!」まくしたてながら抱っこしようとしたときに、娘は体をのけぞらせながら泣き叫んだ。私は早々に娘を引き取って「ごめんなさいね~」と言いながら退散した。心の中で「娘ちゃん、グッジョブ!」と思いながら。
あと、初めての保育園のお遊戯会では、市で一番の大きな会場だったが、始めから最後まで舞台上でわんわん泣いていた。私は、あまり見られない彼女の泣き顔に「かわいい…!!」と感動していた。その時の写真を見ると、今も「かわいい…!!」と思う。

私が当時の仕事のせいで寝不足が続いて精神的に不安定になり、ヒステリックに怒っていた頃がある。
彼女にも理不尽に、ひどい物言いをしていた。今思い返しても恥ずかしい。
そういうときでも、娘は泣かなかった。
目に涙をためつつもこぼさず、敵意むき出しの目つきでにらんでくるのだった。
小学校に上がる前の子供の、無言の抗議、という感じだった。
そのたびに私は自分で反省して、彼女に謝って、でもまたヒステリックになって、を何度か繰り返して、とうとうその仕事を辞めた。
今もたまに寝不足で「キ~っ」という気持ちになると、彼女のあの目を思い出す。
もう彼女の敵にはなりたくない。仲良しでいたい。

だいぶ大きくなった今、泣いている姿をみることはない。
本人曰く「この間泣けた」などとアピールはするが、推しがどうのこうの、という理由らしく、自室で泣いているのかな、親に泣いているところを見られるのはいやかな。
やっぱり泣くことがそもそもあんまりないのかな、と思っている。

今回、彼女の旅立ちの翌朝、「やっぱうちがいいな」というLINEが来た。
これはホームシックだろー、つらいはず、かわいそう、などと思った私は、いろいろと長々と書いたあと「泣いてもいいんだよ」と返した。
そうしたら「それほどでもない」とのあっさりした返事がきた。
母親のあわてぶりに思春期の娘は引いてしまったようだ。
親を、おうちを恋しがって涙をこぼす子供、なんて感動的だろうが!
「おかあさ~ん(泣」ってのを聞いてみたかったんだよ、こっちは!

彼女がもう少し年を重ねて、いつか本当に独り立ちする日、親元を離れる日には、泣く姿を見られるだろうか…
たぶんこっちが、おんおん泣くんだろうな。

彼女が涙を見せるときは、悲しいことではなくうれしいことでありますように。
その願わずにはいられない。



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