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わたしは祈ることしかできない ー母の入院ー

今日から母の入院生活がはじまる。
腹水が溜まってしまった大きなお腹で、歩くのもやっとな母を、病院まで送り届けることになった。

今、コロナウイルスの影響で入院患者との気軽な面会は許可されていない。次はいつ会えるのか、いつ退院になるのかもわからない。

ただでさえ元気をなくしているのに、家族に会えないなんて。
心細いのではないかと思い、冗談っぽく、「よくドラマで見るみたいにベッドの横でりんご剥いてあげられないんだね。お見舞い行こうと思っていたのに」と気にかけていることを伝えてみたが、母は気にしていないようだった。

「もう生きるだけで精一杯。早くラクになりたい」

一日中吐き気や苦痛と闘う母は、たまにそんなふうに言った。以前はおやつを食べたり、バラエティー番組を見たり、寝転がりながらペットや海外旅行の動画をYoutubeで見て一人笑うことが日課だったが、今は全くやる気がしないそうだ。時々体制を変え、一日のほとんどを寝て過ごしている。

病室がどんなところでも、同室の人がどんな人でも気にならない。寝ているだけで、息をしているだけでいっぱいいっぱいなのだから。


入院棟の手前、待合室で案内を待っている間、窓越しに入院棟の廊下が見ていた。点滴スタンドを押して歩く女性や、移動式ベッドに横たわる人。ドラマ以外でそういった場面を見たのは初めてだったかもしれない。

25年間、大きなケガや病気をひとつもしてこなかったので、「外来」以外を知らなかった。当たり前のように思っていたが、それはとても恵まれたことだと知った。

看護師さんが母を迎えにきた。看護師さんが母を連れて、わたしの前を去ろうとする際、こちらに向かって会釈をした。
咄嗟に「(母を)お願いします」と伝えたその時、急激に悲しみが湧いてきた。

ああ、そうかわたしにはどうしてあげることもできない。この方々に全て委ねるしかないのだと気づき、涙が溢れた。
幸い、涙が止まらなくなった時には、もう表情が見えなくなる程の距離を二人は歩いていたのでトイレに駆け込んだ。

次に母に会う時は、辛そうな顔をしていませんように。母が大好きな食事を一緒に楽しめますように。病院の皆さま、どうか母をよろしくお願いいたします。

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