見出し画像

きっかけは何気ない所に転がっている

レインツリーの国  2006   有川浩

「一体何の拍子でそんなことを調べてみようと
思ったのか自分でもわからない。後から思えば
それが運命だったのかな、なんて思う。」

という書き出しで物語は始まる。
きっかけは何気ない所に転がっている。


太宰府にブックスアレナという古書屋がある。
そこのご縁文庫というコーナーで何気なく
手にとった小説である。そこに自分の本を
持っていけば古本と交換もしてもらえる。
いろんな人に読みつがれ、偶然通りがかった
私の手元にやってきたというご縁を感じる。


彼女との出会いから、物語は動き出す。
二人によって交わされる数々の言葉、
メールのやりとりでの感情のゆらぎ、
その感情のもとになる思考の繊細さ、
とても細やかな感情の応酬だと思う。
感情を言葉にすることで想いが顕になる。
その心理描写の奥行きに引き込まれる。


主人公のまっすぐさがまぶしい。
相手に踏み込む距離感と思いやり。
強く言うところと、引くところ。
バランス感覚が絶妙のように思う。
少し一方的な所はあるが、それは、
相手の事をいたわっての言葉であり、
ときにひどくとも彼女に伝わっていく。


言葉の限りある愛おしさを知っている
という表現があり、言葉を大切にする
という作者の真摯な想いが伝わってくる。
言葉が持つ力に思い巡らせてみようと思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?