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永松茂久『人は話し方が9割』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」12月30日放送分)

※MRO北陸放送(石川県在局)では、毎週木曜日の夕方6:30〜6:45の15分間、書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」を放送しています。このシリーズでは、月毎に紹介する本の一覧と、放送されたレビューの一部を無料で聞くことが出来るSpotifyのリンクを記載しています。

※スマホの方は、右上のSpotifyのマークをタッチすると最後まで聴くことができます。

<収録を終えて>
2021年最後の放送、何がいいのか頭を悩ませました。
今年も色んな本を紹介したなあ……と思いつつ、そう言えばまだご紹介していなかったベストセラーがあった! とピックアップしたのが、永松茂久さんの『人は話し方が9割』です。
2019年9月に発刊され、2021年10月に第27刷まで発行されているという記録的な数字を誇り、番組内で紹介する「金沢ビーンズのベストセラーランキング」でも常に上位にランクインしている1冊です。

ビジネス本は私にとって、新聞と同じように(むしろ新聞以上に)「今、世間が何を求めているのか」を読み取るためのメディア的な存在です。
世のビジネスマンたちは、どんなスキルや哲学を身に付けたいと思っているのか、どんな人を目標にしているのかが如実に表れているのが、ビジネス書だと思うからです。
「努力の仕方」から「要領よくこなすコツ」を教える本に、人気が移っていったり。
スティーブ・ジョブズのようなカリスマ性を学ぶための自己啓発系の隣に、人からの好感度の上げ方を熟知するYoutuberやInstagramerのエッセイ的なものも、ビジネス本コーナーの平台に積まれるようになったり。
ニーズの移り変わりは驚くほど激しく、その変遷を見るだけでも学ぶところが非常に多いのです。

『人は話し方が9割』は、自らの好感度を上げるための話し方を、具体的にフレーズなどを紹介しながら示した1冊です。話し方を指南する本はこれまでにも数多く出ていますが、日本出版販売によると「2021年に最も売れた本」の称号は全てのジャンルを押さえて、この本が獲ったということ。つまり、ある意味で、最も鋭く今の世の中のニーズを貫いた本なのです。

私にとって特に印象的だったのが、著者の永松さんが掲げる「否定のない空間」というコンセプトです。
永松さんが主催するコミュニティでは、他人の発言をとにかく否定しないこと、笑顔でうなずくこと、プラストーク(前向きな話)をすることの3つを決めているそうです。
そのルールを守ることで、参加者は前向きに話せるようになるとのことですが、そこに続く永松さんの言葉が素敵です。

(前向きに話すことで)少しずつ、本来の自分を取り戻していくことができる。

(否定され続けてきた過去があっても)自分自身を全肯定してくれる場所に身を置くことで、あなたの過去の傷は知らず知らずのうちに癒されていく。

話す技術を身に付けようと自分に+αをするのではなく、安心を感じることで、本来の自分に還っていく。そうすることで、話し方は劇的に上手くなるのだと、永松さんは言っています。

これ、とても良く分かる気がします。

仕事柄、作家さんにインタビューする機会も多いのですが、そのときに私が心掛けるのが「絶対的味方感」をゲストに感じてもらうことです。

あなたが知られたくないことは、絶対に放送しない。
あなたが聞かれたくないことは、絶対に聞かない。
このインタビューに関して、私は絶対にあなたを守る。
世間に否定されても、あなたを庇うし、庇い続ける。

これを、時に言葉で、時に雰囲気で、ゲストに伝えることを常に意識しています。
大袈裟な、と笑われてしまうかもしれないのですが、この姿勢が相手に伝わった瞬間、ゲストの声の調子や間の取り方、使う言葉などがガラッと変わることを肌で感じているのです。
永松さん的に言えば「安心してもらうことで、本来のその人が現れる」のだと思います。

インタビューという、言葉のやり取りが特に問われる場だと分かりやすいのですが、普段の日常の会話の中でも「安心できるかどうか」を私達は無意識レベルで感じているのではないでしょうか。
そう考えると、「話す」と「聞く」は、ある種の共同作業であることに気がつきます。

本書の中では「拡張話法(感嘆→反復→共感→称賛→質問の順で話す)」の効果が繰り返し強調されているのですが、これはまさしく「相づちのスキル」のこと。話す技術というよりは、聞く技術です。

もしかすると「上手い話し方」とは、自分が思ったことを分かりやすく伝える技術を身につけることではなく、自分と相手とで、いかにお互いが安心できる空間を作り上げるか、ということなのかもしれません。

話すスキルではなく、空間作り。
そこに着眼したところが、『人は話し方が9割』の大ヒットであり、まさに今ビジネスの場で求められていることなのではないかというのが私の分析なのですが……いかがでしょうか?

それでは、今回はこのあたりで。
またお会いしましょう。

<了>

記載したSpotifyのリンクから聞くことが出来るのは、番組の一部を抜粋したものです。BGMや、番組を応援してくださっている「金沢ビーンズ明文堂書店」のベストセラーランキング、金沢ビーンズの書店員である表理恵さんの「今週のお勧め本」は入っていません。完全版はradiko で「木曜日のブックマーカー」と検索すると過去1週間以内の放送を聞くことが出来ます。






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