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角野栄子『魔女の宅急便』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」10月7日放送分)

※石川県にある放送局、MRO北陸放送では、毎週木曜日の夕方6:30〜6:45の15分間、書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」を放送しています。2021年10月から、番組の一部をPodcastで誰でも無料で聞くことが出来るようになりました。このシリーズでは、月毎に紹介する本の一覧を掲載すると同時に、放送したレビューを聞くことが出来るSpotifyのリンクを記載しています。 

※スマホの方は、右上のSpotifyのマークをタッチすると最後まで聴くことができます。

<収録を終えて>

 子どもの頃、気に入った本は何度も何度も擦り切れるまで読み返すタイプでした。買ってもらった本はもちろん、図書館で借りるときも、返却期限になると一旦返して、すぐにもう一度貸し出し手続きをして再び家に持って帰るというように。今から考えると、よくまあ飽きなかったものだと我ながら呆れるのですが、その時は大好きな本の世界を何度も味わえることが嬉しくてたまらなかったのです。

 ナルニア国物語、やかまし村の子どもたち、若草物語、はなはなみんみ物語、黒ばらさんの七つの魔法、わたしのママは魔女……タイトルを思い浮かべるだけで胸が一杯になるような本が、まだまだ沢山あります。ストーリーだけでなく挿絵の位置すら覚えているほど、私の体にすっかり染み込んでしまった物語の数々。きっと、血肉になるってこんなことを言うのでしょう。

 ところが、これらの本を大人になってから読み返してみると、びっくり仰天することが少なくありません。物語の展開は確かに覚えているのですが、そこに至るまでの主人公の心の動きがあまりに記憶と違うのです。え? そんなこと書いてあったっけ? と驚くような場面が次々と登場して、まるで狐につままれたような気持ちになることもあります。

 書評ラジオ「木曜日のブックマーカー」で10月7日に紹介した、角野栄子さんの『魔女の宅急便』も、まさしくそんな本でした。番組では、その時の驚きも込めてレビューをしました。

 『魔女の宅急便』は、言わずと知れたスタジオジブリの同名映画の原作で、13歳の女の子キキが親元を離れ独り立ちし、様々な人と出会って成長するお話です。さらっと書いてしまいましたが、普通に考えて13歳で独り立ちって滅茶苦茶ハードです。 
 子どもの頃に読んだ時は、キキが出会うユニークな人々や出来事に目を奪われていました。でも今読み返すと、キキがどれほど心細かったのか、そしてどれだけ勇気を振り絞って、知らない町で自分の居場所を見つけていったのかが伝わってきます。

 著者の角野さんは、以前テレビの番組に出演されていた時に、「誰でも魔法を1つは持っている。それは、好きなことを見つけて、それで生きるという魔法。たった1つ、それだけでいいんです」というようなことを仰っていました。

 キキは、その言葉を体現したようなキャラクターです。たった1つ、キキが持っていた魔法。それは確かに、彼女の人生を変えるのに十分なものでした。もしキキが、空を飛べるという自分の魔法から目を逸していれば、この物語は生まれていないのです。

 私にも、そんな魔法があるでしょうか。
 もし、たった1つでも魔法が私にあるとしたら、それだけを信じてみたいと、大人になった読者の私は思ったのです。

〈了〉

注)
記載したSpotifyのリンクは、本放送に対して簡易版なので、BGMや、番組を応援してくださっている「金沢ビーンズ明文堂書店」のベストセラーランキング、金沢ビーンズの書店員である表理恵さんの「今週のお勧め本」などは入っていません。完全版をお聞きになりたい方は、radiko で「木曜日のブックマーカー」と検索すると、過去1週間以内の放送を聞くことが出来ます。




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