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前代未聞のレシピ本ができるまで

特に大きなトラブルもなく、書籍の制作は順調に進んでいた。
通常業務と、その合間を縫って広報業務に勤しみ、さらに調理をしてからの執筆活動。
毎日これを続けるのは大変だったが、やりがいのある忙しさだった。

最大の難関は料理に対するコメントだ。
1つの料理に対して求められる文字数は主菜(ごちそうブロッコリー)で約200字+見出し約20字、副菜(おつまみブロッコリー)で約120字。

美味い!などの直感的なコメントだけでは文字数が到底及ばず、これがなかなか難しい。

自由に書くは、書くにせよ、はてさて、いったい何を書けばいいのやら。

構想が行き詰ったところで、レシピ本への理解を深めるため、他のレシピ本がいったいどんな風になっているのか、その実態を調査することにした。

「トマトとチーズの相性抜群!」

……次の本。

「コショウがアクセント!」

……次の本。

「唐辛子の辛さがクセになる!」

……
…………。

これはどうしたことか。

多くの本が、20字以内に収めないといけませんと言わんばかりに、作り方の他は少しだけコメントがあるだけだった。

(ひょっとして長文でコメントが載っているレシピ本は珍しいのだろうか...?)

進めば進むほど謎が深まるミステリー。

執筆が始まる時、編集のナカジマさんは言っていた。

「自由に書いてみてください」

今思えばあの言葉は、セオリーなど考えずに我流でやれ、ということだったのではないか。

もしそうならばこの調査は時間のムダということになる。

(よし、もう開き直ろう......)

「レシピ本の枠を出ないギリギリの境界を狙って、自由気ままに書く」

それが今回のテーマだ。
そしてすべてを書き上げた時、この原稿は前代未聞の色を呈するかもしれない。

「♪ ピーカーブー」

シーザー風の原稿を書いていると、テレビからそんな音声が流れてきた。

(シーザー風......ピーカーブー......あっ、これいい感じで韻が踏める!?!?)

原稿:個人的には「シーザー風」と「ピーカーブー」が韻を踏める点もなかなかポイント高いです

(くるみごま和え...くるみごま和え......クールミー、ゴーマイウェイ!?)

原稿:合言葉は「Cool me, Go my way 」です

……
…………。

といった感じで本当にフリーダムにひと通り書き上げてはみたものの。
果たして出版社からOKが出るのだろうか。

(こんなレシピ本があったら面白いだろうな、という思いはあるが、果たしてこれはどうなのだろう...)

と、悩んでいても仕方ないので、編集のナカジマさんにそのまま提出してみることにした。

「オッケーです!」

正直、全部書き直すくらいの覚悟でいたのだが、意外にもナカジマさんからはオッケーが返ってきた。

「ホントに大丈夫ですか!?!?」

思わず間髪入れずに聞き返してしまっていた。

しかし、何度確認してもオッケーはオッケー。

「中華がゆ」のレシピとは無関係の「日向夏(ひゅうがなつ)」でいきなり韻を踏んでみたり、各国の「召し上がれ」を突然組み込んでみたり、ピーカーブーやらクールミーゴーマイウェイやらいろいろチャレンジ要素を盛り込んだ原稿は、こうして無事本に収録されることが決まった。

レシピ本から前代未聞ステータスのレベルアップ音が聞こえたような気がした。

(つづく)

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